2008年9月30日

中林梧竹の愛用筆

昨日、梧竹の超短鋒筆について書いたら、「中林梧竹の書」を書いてくださった日野先生からお電話をいただき、注文しておいた超短筆ができ上がって来たときのエピソードをうかがいました。
梧竹はさっそく、できたての超短鋒筆で作品を書いたそうです。


てん筆以前.jpg

すばらしい迫力ですね。86歳です。
「恬筆以前」と書いてあります。今のような筆を作ったのは蒙恬という人だと言われていますが、それより昔の筆だ、という意味です。

梧竹愛用筆.jpg
右から二本目と三本目が超短鋒筆。この筆は大中小三種類作ったそうですが、ここにあるのは大と小でしょうか。
考えついた梧竹もすごいですが、これを作った中国の職人もすごいですね。
梧竹は、中国から帰ったばかりの頃、「ナマズの髭」と呼ばれた、長鋒で柔らかい筆を使っていたそうです。右端は日下部鳴鶴愛用の長鋒筆。こんな筆だったのでしょう。
そして、だんだんと短鋒になり、ついには超短鋒になったのだそうです。生涯、筆を変えながら、新たな境地を求めました。そして86歳にして、このような常識をくつがえす筆を注文し、愛用したのですから、すごいと思います。
書は最晩年が一番いいと言われますが、それは優れた書人に限られます。現在の自分に満足せず、強靭な精神力で、培ってきた経験を活かしつつ新たな価値を創造する。こんな芸術は世界に類を見ないと思いますが、いかがでしょう。


ちなみに、左から三本目と四本目は、比田井天来が愛用したのと同じ「籠巻筆」です。銘はないそうです。もしかしたら、天来は、梧竹の筆を見て、雲平さんに同じような筆を作ってほしいと言ったのかもしれませんね。

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