ついに、「シリーズ・書の古典」(全30巻)が完結しました!

全30巻の内容はこちら

 

見えにくい字に、筆路を示す「骨書(ほねがき)」をつけた「テキストシリーズ」。

ご好評をいただいていますが、問題がないわけではありません。

最初のシリーズ「漢代の隷書」についているのは骨書ではなく双鉤(そうこう)だったり、本によっては骨書がとても少ないのです。

また、当時は自社で製版できなかったので、印刷精度が悪く、アマゾンでも指摘されちゃったりしました(汗)。

 

比田井南谷の「書学院出版部」は、優れた印刷で評判だったのに、悲しい。。。

 

よしっ、完璧なシリーズを作るぞ!!!!!

 

まずは、南谷のもとで本を作っていた高橋蒼石先生に、原本の選定と印刷監修をお願いしました。

そして、原価を下げるためにカラーからモノクロにするのですが、ここにちょっとしたコツがあります。

機械の目と人間の目は違うので、そのままモノクロにするとバックが黒ずんでしまうのです。

なのでカラーの状態でレタッチをし、その後でモノクロにする必要があります(詳細は企業秘密)。

 

また、編者の先生方には、骨書を増やす(マジたいへん)ようにお願いしました。

お願いをお聞き届けくださり、本当にありがとうございました。

 

最後の配本は「金文(きんぶん)」です。

内容をほんの少しご紹介しましょう。

 

金文

掲載図版の選定は、中国考古学研究者の高久由美先生です。

「大盂鼎(だいうてい)」などの定番は踏襲しつつ、資料を駆使して、従来のものとは刷新された内容になりました。

なんでも、あの「愙斎集古録(かくさいしっころく)」にさえ偽物があるそうなので、ご用心ご用心。

書学院秘蔵拓本(未発表)も選ばれています。

 

また、骨書は、書宗院常任理事の佐藤容齋先生。

小さな文字だし、とてもたいへんだったと思います。

 

お二人に、深く感謝!

 

 

さて、金文とは古代中国の青銅器に鋳込まれた文字です。

(当時の漢字の書体を指すこともある)

最古の文字、甲骨文(こうこつぶん)は刀で刻されたものですが、金文は筆で書かれた漢字をもとにしているため、線の肥痩なども再現されています。

臨書のお手本として人気が高く、臨書展にもたくさん出品されます。

 

では、金文が作られたのはいつの時代だったのでしょう。

 

金文の時代区分

金文は、殷代に誕生し、殷の文化をそのまま引き継いだ西周時代に全盛期を迎えます。

春秋・戦国時代になると周王室の権威が急速に衰え、青銅器の製作技術が列国へと伝搬し、銘文にも各地の地域性や独自性が発揮されるようになります。

そして、秦の天下統一によって列国の文字が統一されました。

その後の漢代の金文は、器物に製作者の名前を記す短い刻銘を持つものとなり、やがて殷代以来の金文の歴史は幕を閉じるのです。

 

本書では、殷が11、西周前期10、西周中期8、西周後期9、東周の楚系8、晋系5、斉系1、燕系1、秦系2、全55種の金文拓本が収録されています。

 

 

まずは殷の金文から。

 

金文,司母戊方鼎

右は婦好墓から出土した「司母戊方鼎(しぼぼほうてい)」で、もっとも古い有銘青銅器の一つとして知られています。

左は族徽と呼ばれる氏族集団の標章。

なんとも魅力的な造形です。

 

小臣艅犧尊

殷末になると、文章としてまとまった内容の器物があらわれます。

「小臣艅犧尊(しょうしんよぎそん)」です。

 

大盂鼎

西周前期になると、かなり長文のものがあらわれます。

有名な「大盂鼎(だいうてい)」です。

どこを臨書して作品にしようかと迷ったら、

 

巻末に、臨書作品におすすめの部分がまとめられていますので、参照してください。

本書には、釈文、訓み下し文のほかに現代語訳もあるので、内容を確認することができます。

 

金文

西周中期の「十三年コウ壺」。

 

散氏盤

西周後期の「散氏盤(さんしばん)」は、臨書展でも人気です。

散氏盤からは、上記のような部分が紹介されています。

 

周王室の権威が衰えると、各地で個性的な金文が登場します。

楚の金文

春秋時代、楚の「楚王酓カン鼎(そおうあんかんてい)」。

おもしろい字形です。

 

楚の金文

こちらも楚の金文。

縦にすっくと伸びた、装飾的な要素の強い文字です。

 

秦の金文

諸国にやや遅れて西方に勃興した秦国は、周の東遷後、その故地に移り住み、周の残した文字文化をそのまま吸収したと考えられています。

「秦公鎛(しんこうはく)」

 

 

最後に、書学院蔵拓本(未発表)の中から、一点だけご紹介します。

呉大澂

左が原本、右が「シリーズ・書の古典」の掲載ページです。

書き込みは、中国清代の大家、呉大澂(ごたいちょう)。

なんと、呉大澂から日下部鳴鶴(くさかべめいかく)に贈られた拓本なんです。

カラーで出したかったけど、豪華本になっちゃうので、泣く泣くモノクロに・・・。

習いやすいように、濃淡の差を若干上げています。

 

呉大澂自筆の目次です。

 

なおこの原本は、7月2日(金)から7月8日(木)まで、東京都美術館で開催される「書宗院展(しょそういんてん)」で展示されます。

書宗院は、桑原翠邦先生が創設なさった団体で、古典臨書を基盤として格調高い書作を理想としています。

なので、展示される書宗院の方々の作品はすべて臨書。

ほかにもたくさんの拓本や近代人の臨書などが展示されるので、ぜひご覧ください。

 

また、7月4日(日)午後3時半からは、美術館講堂で私めが講演をいたします。

どんな内容になるかは、来週あたりにブログに書きます。

どなたでも視聴でき、事前申し込み不要です。

 

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