墨の年末セールが始まりました。
今回は鈴鹿墨の特集です。
三重県鈴鹿では、平安時代から優れた墨が作られてきました。
かつてはたくさんあった墨工房も、現在では進誠堂さん一軒のみとなってしまいました。
墨を作っているのは伊藤亀堂さんとご子息の伊藤晴信さん。
鈴鹿墨の伝統を未来につなぐべく、それはそれは情熱を傾けた墨づくりです。
テレビや雑誌など、多くのメディアで紹介されていますから、ご存知の方も多いかもしれませんね。
このたび、天来書院がおすすめする筆墨硯紙にご参加くださることになりました。
すばらしい墨ですので、ご注目いただきたいと思います。
さて、その中に「古玄」という「にじまない」墨があります。
ビデオ「筆墨硯紙のすべて(全五巻)」の中にも「にじまない墨」が登場しますが、取材のとき、これはとても気になりました
美しいにじみを追求する「淡墨作品」で、なぜ「にじまない墨」を使うのでしょう。
まずは、貞政少登先生。
手島右卿先生が提唱なさった「少字数書」では、美しいにじみを大切にします。
手島先生のもとで学ばれた貞政先生には、DVD「墨を極める」と「紙を極める」にご出演いただきました。
「紙を極める」では、墨と紙が異なると、にじみはどのように違ってくるのかを実演してくださいました。
上は中国の松煙墨「黄山松煙」を使っていろいろな紙に書いたもの。
上段は日本の紙。
下段は中国製で、左の「亀紋箋(本画宣と似たにじみがある)」と、「棉料夾宣」ではものすごくにじんでいます(にじみすぎ)。
「唐」という墨を使っています。
にじみが美しく出ています。
続いて、問題の「にじまない墨」。
「いかだ墨」といって、船に使う墨だそうです。
すべての紙でにじみません!
「どうやって使うんですか?」
「にじみすぎるときにスパイスとして使うんです」
「は?」
よくわからないのですが・・・・・。
次は「墨を極める」にご出演くださった柳碧蘚先生。
淡墨の作り方(墨汁を使う・固形墨を使う・二種類の墨を使う・宿墨を使う)をご披露くださいました。
大きな澄泥硯です。
わずかに水をたらして墨を磨ります。
濃く磨ってから水で薄めるのが美しいにじみを生み出すコツ。
よくにじむ墨と、まったくにじまない墨をいっしょにして磨ります。
きれいににじみました。
「スパイス」という意味はこれだったのかも。
そして、すべてがわかったのは「書道テレビ」でした。
山中翠谷先生がわかりやすく紹介してくださったのです。
ユーチューブはこちら。
左が「青藍花」のみで、右が「古玄」を混ぜたもの。
こういう研究があるからこそ、美しいにじみをだすことができるんですね。
山中翠谷先生、ありがとうございました。
番組ではこの後、宝研堂の青栁貴史さんにもご出演いただいて、「硯によって墨の色が異なるか?」というのをやりました。
「ユーストリーム」のニュースで、「地上波ではありえない激シブ番組」と言われちゃいました。
そりゃそーだ。
墨は東洋が誇る優れた文房具だと思います。
さわってもよごれないので携帯に便利ですが、ひとたび水にとかすと黒い液体になり、すべてを黒く染めてしまいます。
そして注目したいのは、その保存性。
図版は殷代の墨書(書籍『書の旅55』より転載)ですが、墨で書かれた文字が、3000年もの年月を超えて今に伝えられているなんて、びっくりですね。
では、今多くの方がお使いになっている液体墨はどうでしょう。
一般的な液体墨にはすすのほかに、膠の代わりとなる合成糊剤や湿潤剤、防腐剤が加えられています。
これは保存性という点から見ると、ちょっと不安です。
液体墨が広まってからまだ50年ほどしか経過していませんから、長い年月の間に変質しないという保証はありません。
いつもの練習には液体墨、作品は固形墨というように、うまく使いわけをしてはいかがでしょう。