シリーズ書の古典とは

天来書院 › シリーズ書の古典とは

日々の手習いから作品づくりまで徹底的にサポートすることを目指して設計された、臨書手本の新定番『シリーズ書の古典』は、2016年より刊行開始され、全30巻で完結しました。

中国・日本の数ある古典の中から、手本としてよく習われる作品を厳選し30冊にまとめました。名だたる傑作が勢ぞろいです。

書道の手本としてどのような特徴があり、どのように活かしていけばよいのでしょうか? 以下に説明していきます。

まずは基本的なこと

「古典」とは?

「古典」とは?

「書道の手本」といえば、先生が書いてくれたお手本のことをイメージするかもしれません。
しかし現代では、長い歴史の中で名品とされ続けてきた書を直接見て学びます。

例えば、西暦300年代の中国に存在し、書聖として名高い「王羲之(おうぎし)」の書は、現代でも至高の名品とされ、同時に最も普遍的な手本とされています。

いっぽう日本で有名なのは、弘法大師・空海です。能書家(書の名人)として名高く、その書の揺るぎない力は今も見る人の胸を打ちます。

これら名品のことを「古典」と呼んでいます。

歴史の中のどの時点から古典と呼べるかの厳密な定義はありませんが、『シリーズ書の古典』では中国・唐の時代以前、日本では平安中期以前の漢字作品を対象に採り上げています。

(関連)比田井天来:思想

「臨書」とは?

「臨書」とは?

書を学ぶにはどんな方法があるでしょうか。

まず第一に挙げられるのが「臨書」です。

これは古典を手元に置き、よく見てそっくりに書くことをいいます。

画家が自然を対象にデッサンをして研鑽を重ねるのに近いかもしれません。文字は自然の中にはありませんから、書ならば古典の名品を対象にするということです。

歴代の書の名家たちはトレーニングとして、臨書を例外なくやってきました。

(関連)比田井天来:古典の臨書

何のために臨書をするの?

書の歴史的名品には、個性豊かでありながらいずれにも通底する本質的な美があり、これを体得するためには幅広い古典作品から直接学び取る必要があります。

しかし筆法を言葉だけで伝えるのは難しく、自分自身が古典に向き合い格闘した方がより深く理解することができるでしょう。

そのために行うのが臨書です。

どんなことが身につくの?

書の線の味わい深い表情や運筆のリズムなどには、筆者の内面が端的に表れます。ここに豊かで深い書の感動があるのです。
自らの作品でこの感動をもたらしたいと思うならば、そのための表現力と技術を身につけなくてはなりません。
古典名品はさまざまな時代、さまざまな地域の表現で彩られた美の宝庫です。まずはここから幅広く多彩な筆法を取り入れるべきでしょう。

また臨書は、鑑賞にも役立ちます。
良い芸術作品が必ずしもきれいで整った字であるとは限らないのが書の奥深いところで、印刷用の活字に見慣れた現代人の意表を突くような書も、価値ある古典として残り続けています。
臨書によって書の美を深く追求することにより、そのような一見わかりにくい書にも感動を見出すことができるようになるはずです。

通り一遍の言葉では表現しがたい書の魅力を少しずつ解き明かし、いずれは自分の力になる。これが臨書によって身につく大きな成果です。

古典の臨書は難しそう…

千年以上前に書かれた古碑帖や古筆には痛みがつきもので、見えにくい部分もたくさんあります。
また字形も現代よく目にする活字とは大きく異なる場合が多く、容易には理解させてくれません。

そこで天来書院は、古典臨書に多くの人が親しめるよう努力して参りました。その結晶が『シリーズ書の古典』です。

シリーズ書の古典の特徴

『シリーズ書の古典』を開いてまず目に入るのは、古典名品の美しさがそのまま息づいているような精細な図版。
モノクロであっても単調さを感じない微妙な陰影と、原本の質感を活かした繊細な立体感、そしてあくまで自然な風合いを旨としながら文字の輪郭を捉えやすい特殊な画像処理を施しています。
「原寸」「全文掲載」を基本とし、また古典臨書をサポートするためのあらゆる工夫が徹底されています。

それでは、その工夫がどのようなものかを見ていきましょう。

骨書(ほねがき)

骨書(ほねがき)

文字の骨格を明らかにし、筆路をわかりやすくするため、ペン書きで文字を形取った「骨書」が多くの字に添えられています。

古典作品は剥落して見えにくくなった文字が多くあります。このような場合にも、骨書はきっと助けになります。

巻によってはすべての文字に骨書が付いているわけではありませんが、わかりにくい文字を中心になるべく多くの文字に触れています。

字形と筆順

字形と筆順

古典の作品で使われている文字は、現代の私たちが目にする活字とは字形が大きく異なることが多くあります。
このような字形の違いについて巻末にて解説を加え、学習の参考にして頂けるようにしています。

また筆順も、わかりにくいものを中心に解説しています。

現代語訳

シリーズ書の古典で採り上げている作品は、読まれることを前提に書かれた文章です。
内容がわかれば、古典により親しみやすくなることは間違いありません。
また理解が深まることで臨書作品の表現にも自ずと変化が表れてくるかもしれません。

当シリーズのほとんどの巻では、全文を平易な日本語で翻訳しています。
(『2.木簡・竹簡』は文章になっていない断簡が多いため掲載していません。)

臨書作品制作のために(節臨に適した箇所)

臨書作品制作のために(節臨に適した箇所)

臨書は作品にもなります。
しかし作品にする以上、その題材選びには少し注意が必要です。

シリーズ書の古典に掲載の古典作品はほとんどの場合、長い文章です。
その中から一箇所を抜き出して作品にするにあたり、その切れ目が文として不自然であれば鑑賞する際に違和感があります。
そのような作品は減点あるいは審査対象外となる公募展もあります。

そうならないために、巻末にて臨書作品の題材としてふさわしい言葉を本文中から抜粋し、文字数ごとに整理、一覧化しています。ぜひ参考になさって下さい。

テキストシリーズとの違い

1996年以来、天来書院では臨書手本の定番として長年ご愛顧頂いている『テキストシリーズ全61巻』を刊行して参りました。
この頃から「骨書」「字形と筆順」の要素はありましたが、もっと多くの文字に解説を加えてほしいとのご要望を多々頂いて参りました。

そこで骨書や字形・筆順解説を大幅に増やし、「現代語訳」「臨書作品制作のために」という新要素をプラスしてリニューアルしたのが『シリーズ書の古典 全30巻』です。
また図版も新たに選定し直し、美しく習いやすくなっております。
基本的な作りは従来の形を踏襲しているため気づきにくいかもしれませんが、内容は大幅に充実しております。

なお、リニューアルにあたりラインナップに載らなかった古典作品もあります。
対応状況はこちらからご確認頂けます。
・テキストシリーズ リニューアル対応表

シリーズ書の古典を使いこなす!

それでは、実際に「シリーズ書の古典」を使って臨書作品を制作してみましょう。

(例)題材は『書譜』で、14字程度(半切2行)の作品を仕上げます。

1.題材を選ぶ

1.題材を選ぶ

巻末「臨書作品制作のために(節臨に適した箇所)」で、題材にしたい言葉を探してみましょう。

文字数ごとに整理されているので、14字のところを見ます。

ここに掲載されている言葉が本文中のどこにあるか、ページ数と行数が書いてあるのですぐにわかります。

2.意味を確認する

2.意味を確認する

意味にまでこだわって題材を選びたいなら、「現代語訳」を参照しましょう。
原文の理解が進むと、表現にも奥行きが増してくるかもしれません。

3.難しい字は事前にチェック

3.難しい字は事前にチェック

「骨書」は図版の左横に付いています。
「字形と筆順」は巻末にあります。
(すべての文字に付いているわけではありません)

それぞれ対応する部分をチェックして、誤字とならないよう気をつけましょう。

4.形をイメージ

4.形をイメージ

できれば草稿を作った方が良いでしょう。
あとは完成に向かって書き込むだけです!

古典臨書に関する読み物

酔中夢書―書の古典の学びかた
・王羲之・蘭亭序(らんていじょ)を学ぶ
・王羲之「十七帖」を学ぶ
・孫過庭「書譜」を学ぶ
・欧陽詢「九成宮醴泉銘」を学ぶ
・虞世南 孔子廟堂碑を学ぶ
・褚遂良 雁塔聖教序を学ぶ
・顔真卿「麻姑仙壇記」を学ぶ
・空海「風信帖」を学ぶ

古碑帖の正確な見方―臨書がうまくなるために 筒井茂徳
臨書したけど何か違う、でもどこがどう違うのか、どこを直せばよいのかが分からない時、「形」がカギになるかもしれません。

特別寄稿―「臨書」の弁証法 高橋無有
天来が提唱し、実践した革新的な臨書とは何か。天来の臨書論の意義をヘーゲルの弁証法を視野に入れつつ解明します。

特別寄稿―顔真卿 若い時期の楷書書風を探る 横田恭三
新出土の碑誌を、〈多宝塔碑〉〈東方朔画賛碑〉と比較し、顔真卿の若い時期の書法を分析します。「顔法」の表現のヒントに。

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