比田井小琴と筆草

2018年7月11日

前回のブログで、毎日書道展の特別展示「墨魂の昴」に展示される天来・小琴の作品をご紹介しました。

その最後に、小琴と筆草(ふでくさ)についてご紹介しましたが、もう少し詳しく書きたいと思います。

 

まずは小琴の写真。14歳から16歳まで阪正臣先生の内弟子となり、家事をしながら、寝る間を惜しんで勉強したそう。後に語ったのは、5時間は銀、4時間は金、3時間はダイヤモンド。これ、睡眠時間のお話です。鍛え方が違います!

 

さて、本題に戻ります。一昨年、広島県熊野町にある「筆の里工房」で、比田井天来と小琴の展覧会が開催されました。そこで、熊野町に伝わる作品を展示してくださいましたが、その中の、仿古堂さんご所蔵の作品です。

 

小琴が、仿古堂さんが作った「柳のまゆ」について詠んだ歌三種。

この時は、仿古堂さんに何日も宿泊して作品を書いたそうです。歌の読み方はこちら。「柳のまゆ」のページはこちら

 

扇面も数多く残しました。

 

半切です。右二点は自詠、左は阪正臣の歌です。

小琴は「600年前の人のようだ」と言われたそうです。夫、天来の教えに従い、ひたすら古筆の臨書を続けます。現代的な華やかさやリズムではなく、古筆の持つ健やかな強さを追い求めたのです。

 

夫、天来と死別したのは、小琴が54歳のとき。その頃の小琴について、勝雲山さんはこんなことを書いています。

小琴先生には昭和15年ごろであったか、鎌倉の書学院を訪れた際に、条幅を書かれるところを拝見させていただいた。当時はかなの条幅を書く人はまれであった。私はこのときからかなの条幅の研究が始まったと思います。そのときの筆は、筆草といって、草の根でできた筆で一気に二行書きしてくださった。そのときはじめて筆草というものを拝見したわけです。(『信濃教育』)

 

これが小琴が使った「筆草(ふでくさ)」です。尖端が筆の穂のような形をしていますが、毛が自由に開閉する筆とはまったく違って、かたい「根」です。ふつうの人が使いこなすのは至難の業! 

研鑽を積んだ小琴が使うとどうなるでしょう。

 

流れるような線の動きに変わって、じっくりとした渋みが出てきました。開放的に外へ向かうのとは反対に、内に向かって凝縮していくような作品です。

息子、比田井南谷はこんなふうに言っています。

母の書いたもののなかでは改まって書いたものより、倉卒に不用意に筆をとったもののなかに、よいものが残っているし、また晩年筆草を使って書いたものには僕は心を引かれます。

 

これも筆草の作品。「墨魂の昴」に展示されています。

筆草は、現在も海岸に生えているそう。興味のある方は、前回のブログの最後の部分を御覧ください。

筆草をプレゼントしてくださった佐々木良子先生は、これを使って前衛書をお書きになりました。鋭い味わいが魅力的です。

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書道