新年のお喜びを申し上げます。
いつも天来書院を応援してくださり、本当にありがとうございます。
昨年10月、私は70歳を機に代表取締役社長を譲り、取締役会長に就任しました。
突然のお知らせでしたので、健康を害したのではないかと心配してくださったみなさま、本当に申し訳ありません。
記憶力や体力の減退は否めませんが、相変わらず忙しくしています。
私がはじめて書道出版に関わったのは、伏見冲敬先生編『角川書道字典』の編纂室に入れていただいた時です。
その後、天来が創始し、後を継いだ父が経営する書学院出版部で編集の仕事をしました。
上は書学院出版部総合目録の最初のページです。
あまり知られていない書の名品を、南谷こだわりの印刷技術で複製しました。
そして雄山閣に8年間お世話になった後、独立して株式会社天来書院を立ち上げました。
1990年、40歳のときでした。
書籍の製作販売をメインにしましたが、販売目的のビデオ製作が普及し始めていた時で、ビデオ「書・二十世紀の巨匠たち」(全六巻)を製作しました。
父、比田井南谷が撮影した8ミリフィルムを中心に巨匠たちが作品を書いている動画によって構成したもので、マスコミで取り上げられるなど大きな反響をいただきました。
また、インターネットにも大きな魅力を感じてホームページを立ち上げ、「shodo.co.jp」というアカウントを取得しました。
2011年2月からはインターネットライブ放送「書道テレビ」を開始し、翌年1月には朝日新聞「Glove」が大きく取り上げてくださいました。
社内ではマックのパソコンシステムを構築し、かつては印刷会社に依頼していた製版やレタッチ、専門家の力を借りていた動画編集など、すべてを社内で完成させる体制を作りました。
納得できるクオリティを実現するとともに、販売価格をおさえることができるようになったのです。
こうして業務の流れはスムーズになりましたが、気になるのは後継者のことです。
書家の高齢化や書道塾減少が危ぶまれる昨今、書道出版で生計を立てようなどという奇特な人が現れるのは奇跡に近いと思われました。
しかも、出版不況の中、社長は企画・編集・販売管理・商品管理・経理など、一人ですべてをこなさなくてはならないのです。
ところがそんな中、奇特な人が現れたのです。
それが現社長、長瀬拓磨で、以前から天来書院の社員として書道出版の研鑽を積み、業務に精通していました。
社長就任は、奇しくも立ち上げ当初の私と同じ40歳です。
今はまだプレッシャーが大きいようで、あまり表に出ていませんが、激務の中で、いろいろ楽しみな企画を温めています。
私はもうしばらくは仕事を続けて、新社長に比田井天来の考え方や南谷の印刷術、そして今まで培ってきた会社の全体像を伝え、ともに新しい路線を開拓していきたいと思っています。
これから書道界はますます厳しい状況になるかもしれません。
今するべきことは、よい商品を作ることと同時に、多くの人に書の魅力を知ってもらうことだと思います。
インターネットを初め習得した方法を活かして、書という優れた文化の発展に少しでも貢献できたらと考えています。
これからもご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。