愛ターン 地方の活性化ということ

2018年9月18日

長野県佐久市の旧望月町は比田井天来の生誕地。1975年、ここに文部省の博物館法が認定した日本で最初の書道専門美術館「佐久市立天来記念館(当時は望月町立)」が建てられました。

開館記念祝賀会には、天来門流以外も、書壇の錚々たる方々が駆けつけてくださいました。天来門人による講習会が三年にわたって開催され、天来記念館直属の「画沙会」が結成され、まさに「書の町・望月」の実現に向けて第一歩が踏み出されたのでした。

しかし、情熱は次第に沈静化し、町政も変わり、いつしか企画展も行われず入館者も減少していきました。

ある日、望月町の比田井天来生家でおしゃべりをしているとき、当主の比田井昭三さんが「東大総長の弟さんが講演をするので聞きに行く」と話していました。そういえばあちこちにポスターが貼ってあったな、と思い出し、何か変わっていくのかな、などと漠然と考えていました。

そうこうするうちに、その「東大総長の弟さん」が望月町長に立候補し、あれよあれよと言う間に当選したのでした。私はさっそく新町長に面会し、天来記念館を活性化したいとお願いしました。ところがところが、「それならあなたが天来記念館の館長になりませんか?(喧嘩売ってる?)」ということになり、「一晩いっしょに飲むならなりましょう(ばかだね)」と答えた私は、館長になりました(つまり飲んだわけよ)。

その人の名前は、吉川徹さん。吉川さんは東京教育大学を卒業後、東大研究生を経て、誰一人知る人のいない望月町役場に社会教育主事として赴任し(ご苦労もあったと思います)、大勢の理解者を得て町の活性化に取り組んでいる最中でした。吉川町長は文化面にとても力を入れ、書にも造詣が深かったのです。

「書の町望月」への新展開は、こうして始まったのでありました。

 

さてさて、前置きが長くなりましたが、吉川徹さんは信州民芸運動を推進した教育者、小林多津衛先生を敬愛し、多津衛先生が蒐集したコレクションを展示する「多津衛民芸館」の館長でもあります。

 

ここで「平和と手仕事」という小冊子が発行されていますが、心のこもったすばらしい本で、毎号届くのを楽しみにしています。

最新号(23号)では「愛ターン特集」と銘打ち、都会から佐久市へ移住して、有機農業などを生業とする青年たちを紹介しています。まさに、大先輩である吉川さんが、若者たちの挑戦を応援するものと言えるでしょう。

 

都会で企業に勤め、将来を約束されながら、それを捨てて、見知らぬ場所への移住という決断をした青年たち。

紹介されているのは、農業のほかに大工さん、パン屋さん、パスタ屋さん、チーズラボなど全部で19名とそのご家族、そして地域おこし協力隊2名。出身地は東京や千葉、群馬、愛知、神奈川、長崎など。経験のない仕事は不安もあり、失敗もしばしばです。でも、地元の方々に助けられ、ひたむきに取り組む姿は感動的です。

その中から、ホームページで全国に発信し、購入できる農園をご紹介しましょう。お名前から検索しているので、漏れてしまった方がいらっしゃったらお許しください。

 

最初にご紹介するのは、ゆい自然農園。無農薬で野菜を育てる草分け的な存在です。1976年に佐久市長者原で農業を開始し、十年後有機農業に切り替えました。3haほどの面積に、一年間に80品目ほどの野菜を作る少量多品目栽培の無農薬有機農業。ネットで購入可。ここで研修して独立した農家も数多いそうです。

 

続いて藤井農園。ゆい自然農園で研修したご夫妻で、お子さんが三人。ご主人はもとシステムエンジニア、奥様はソフトウェア会社でマーケティングのお仕事をしていたそう。デスクワークから肉体労働へ、遅寝遅起から早寝早起きへ。荒れ放題の土地を開梱し、2007年に農園をオープン。年間約50種類の無農薬、無化学肥料の野菜とお米などをレストランや家庭に届けています。

 

mano namoのご主人は東京農大卒業後、青果市場の卸売業務を経て映像制作会社に就職。東北大震災に遭遇して、自分の手で安心できる食べ物を届けたいという気持ちが強くなったそうです。当初は不安でいっぱいだった奥様も、地元の人の暖かい応援と、若いママさんたちとの交流で、いろんな夢が生まれたそうです。

 

ネットで販売はしていませんが、星の坊主さまというユニークな農園もあります。

 

フェイスブックで情報を発信しているのは

アトリエノマドFarmめぐるとみずく農園百笑農房長谷川治療院農業部

Restaurantさんざは本格的なフレンチレストランです。

また、前に私のブログで紹介したボスケソ チーズラボのご主人は長崎県出身。東北大学大学院で航空宇宙工学を専攻し博士号を取得、本田技研研究所でビジネスジェット機の研究開発、Formulalおよび燃料電池車の車体空力開発(理解不能!)に携わっていましたが、趣味が高じて(ごめんなさい)チーズラボを作りました。山羊のチーズ「TENRAI」はじめ、とっても美味しいチーズです。

 

吉川徹さん バックは天来自然公園

 

移住した方々は口々に、望月町の人々の暖かさ、優しさを語っています。知らない土地であるにもかかわらず、親身になって世話をしてくださる方がいらっしゃれば、勇気がわき、新しい仕事に取り組むことができるでしょう。

振り返れば、天来の都会での活躍は、郷里の人々の熱い応援があったからこそ可能でした。地元のみなさんと移住した方々のさらなるご活躍を祈ってやみません。

 

「平和と手仕事」は定価700円。

お問い合わせは多津衛民芸館まで。

〒384-2202 長野県佐久市望月2030−4 電話0267−53−0234

 

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日記