2014年10月 9日

墨場必携:近代詩 ゲーテ「ファウスト」より 森鴎外


    
1008月IMG_7411.jpg                                      26.10.8 皆既月食 東京都清瀬市


   「ファウスト」    ゲーテ:森鴎外 訳

              悲壮戯曲の第二部 第一幕
              第4634行〜第4649行


     あたゝけき風の戦(そよぎ)                ‪4634‬
     緑に囲はれたる野に満てるとき、

     黄昏(たそがれ)は甘き香を
     霧の衣(ころも)を降(ふ)り来させ、
     楽しき平和を低く囁(ささや)き、穉子(おさなご)を
     寝さするごとく心を揺りて眠らしむ。
     かくて疲れたる人の目の前に

     昼の門の扉はさゝる。
                 ※扉は鎖(さ)さる:扉は閉じられる
     夜ははや沈み来ぬ。
     星は星と浄く群れ寄る。
     大いなる火も、小さき光も
     近くかゞやき、遠く照る。

     湖に映りてこゝにはかゞやけり。
     澄みたる夜の空にかしこには照れり。
     いと深き甘寝(うまい)の幸(さち)を護りて、
     月のまたき光華は上にいませり。                         ‪4649‬       


    
1008月食IMG_7541.jpg
                                            26.10.8 東京都清瀬市








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