墨場必携:近代詩 沙羅の木 森鴎外
26.6.14 東京都清瀬市
沙羅の木 森鴎外
褐色(かちいろ)の根府川石(ねぶかはいし)に
白き花はたと落ちたり、
ありとしも青葉がくれに
見えざりし さらの木の花。
26.6.14 東京都清瀬市
沙羅はツバキ科ナツツバキ。
6月から7月初旬にかけて花開く。朝に開いた花は夕方には落花すると
いう、いわゆる一日花である。
鴎外の詠んだ沙羅の木は、自宅観潮楼の西南側の植え込みの中の木であった
という。
「初夏に白い花が咲くが、気を附けていないと見すごすほど淋しい花であった」
と森於菟氏の著述にある(『父親としての鴎外』)。
24.6.23 東京都清瀬市
昭和29年、鴎外の三十三回忌に、子どもたちは自宅であった観潮楼に
この詩を刻んだ詩壁を建てた。碑背に「父鴎外森林太郎三十三回忌にあたり
弟妹と計りて供養のためこの碑を建つ 昭和二十九年七月九日 嗣 於菟」
とある。揮毫を依頼されたのは隠棲していた永井荷風、七十五歳であった。
このときの事情も『父親としての鴎外』に詳しい。
観潮楼跡は現在文京区立森鴎外記念館となって今日に鴎外の事跡を伝えて
いる。「沙羅の木」の詩壁もそこで見ることができる。