墨場必携:近代詩 春の胎動 宮澤賢治「詩ノート」から
26.2.19 埼玉県所沢市城址公園
(南から また東から)
宮澤賢治「詩ノート」 一九二七、四、二
南から
また東から
ぬるんだ風が吹いてきて
くるほしく春を妊(はら)んだ黒雲が
いくつもの野ばらの藪(やぶ)を渉(わた)って行く
ひばりと川と
台地の上には
いっぱいに種苗を積んだ汽車の音
26.2.25 東京都清瀬市
詩は宮澤賢治の「詩ノート」に残された断章。
日付は1927年4月2日とある。東北のまだ春浅い頃の空気感と、農地の胎動の兆しが窺える一篇。
花巻の稗貫農学校のために賢治が作った「農学校歌」の一番の歌詞は
日ハ君臨シ カガヤキハ
白金ノ雨 ソソギタリ
ワレラハ黒キ土ニ俯(ふ)シ
マコトノ草ノ タネマケリ
というものであった。
まず初めの仕事として、土に俯し、種を播く。そうして育った種苗を植え付ける時には、一年の農ははっきり始動しているのであろう。
ゆっくりと来る春。そこに始まる人の営みが力強く感じられる 詩の言葉である。
26.2.25 東京都清瀬市