墨場必携:近代詩 立秋 『文語詩稿五十篇』より「上流」 宮澤賢治
26.8.11 東京都清瀬市
秋立つけふをくちなはの、沼面はるかに泳ぎ居て、
水ぎぼうしはむらさきの、花穂ひとしくつらねけり。
いくさの噂さしげければ、蘆刈(あしかり)びともいまさらに、
暗き岩頸(がんけい) 風の雲、天のけはひをうかゞひぬ。
「上流」(『文語詩篇 五十篇』より)宮澤賢治
秋立つ:立秋のこと。本詩稿は1927年の作。この年の立秋は新暦の8月8日。
くちなは:蛇
水ぎぼうし:ミズギボウシは近畿から中国地方に分布する植物。
本詩稿の植物はユリ科の多年草コバギボウシかとの推定あり。
(土岐泰「《文語詩稿》の植物」『弘前・宮沢賢治研究会会誌7』平成2年12月)
蘆刈びと:蘆(あし)を刈る農民または農民一般を指すか
岩頸:火山が侵食されて火成岩が円筒形に地表に現れて残った地形。
その下にはマグマ溜まりがあって火山爆発が起きることがある。
コバギボウシ 26.8.9 東京都清瀬市