墨場必携:近代詩 虹の絵具皿 宮澤賢治
「虹の絵具皿(十力の金剛石)」 宮澤賢治 より詩歌部分抜粋
(掲載者註:はちすずめの歌う歌)
ザッ、ザ、ザ、ザザァザ、ザザァザ、ザザァ、
ふらばふれふれ、ひでりあめ、
トパァス、サファイア、ダイアモンド。
ザッザザ、ザザァザ、ザザァザザザァ、
降らばふれふれひでりあめ
ひかりの雲のたえぬまま。
ザッザザ、ザザァザ、ザザァザザザァ、
やまばやめやめ、ひでりあめ
そらは みがいた 土耳古玉(トルコだま)。
26.6.30 東京都清瀬市
りんどうの花はそれからギギンと鳴って起きあがり、ほっとため息をして歌いました。
トパァスのつゆはツァランツァリルリン、
こぼれてきらめく サング、サンガリン、
ひかりの丘(おおか)に すみながら
なぁにがこんなにかなしかろ
26.6.23 東京都清瀬市
うめばちそうはまるで花びらも萼(がく)もはねとばすばかり高く鋭く叫びました。
きらめきのゆきき
ひかりのめぐみ
にじはゆらぎ
陽(ひ)は織れど
かなし。
青ぞらはふるい
ひかりはくだけ
風のきしり
陽(ひ)は織れど
かなし。
26.7.13 東京都清瀬市
野ばらの木が赤い実から水晶の雫をポトポトこぼしながらしずかに歌いました。
にじはなみだち
きらめきは織る
ひかりのおかの
このさびしさ。
こおりのそこの
めくらのさかな
ひかりのおかの
このさびしさ。
たそがれぐもの
さすらいの鳥
ひかりのおかの
このさびしさ
26.7.8 東京都清瀬市
(掲載者註:光の丘の草も花もみなが起き上がって)そして声をそろえて空高く叫びました。
十力(じゅうりき)の金剛石(こんごうせき)はきょうも来ず
めぐみの宝石(いし)はきょうも降らず
十力(じゅうりき)の宝石の落ちざれば、
光の丘も まっくろのよる
金剛石:ダイヤモンド
十力(じゅうりき)の金剛石(こんごうせき)は今日も来ない。
その十力(じゅうりき)の金剛石(こんごうせき)はまだ降らない。
おお、あめつちを充てる十力(じゅうりき)のめぐみわれらに下れ
26.6.29東京都清瀬市
空が生き返ったように新しくかがやき、はちすずめはまっすぐに二人の帽子におりて来ました。はちすずめのあとを追って二つぶの宝石がスッと光って二人の青い帽子におち、それから花の間に落ちました。
「来た来た。ああ、とうとう来た。十力(じゅうりき)の金剛石(こんごうせき)がとうとう下った」と花はまるでとびたつばかりかがやいて叫びました。
木も草も花も青ぞらも一度に高く歌いました。
ほろびのほのお 湧きいでて
つちとひととを つつめども
こはやすらけき くににして
ひかりのひとら みちみてり
ひかりにみてる あめつちは
26.6.29 東京都清瀬市