墨場必携:近代詩 惜別の歌 高楼(たかどの)
26.3.15 東京都清瀬市
惜別の歌 中央大学学生歌
原詩 島崎藤村「高楼(たかどの)」
遠き別れに堪へかねて
この高楼(たかどの)に登るかな
悲しむなかれ我が友よ
旅の衣をととのへよ
別れといへば昔より
この人の世の常なるを
流るる水をながむれば
夢はづかしき涙かな
君がさやけき目の色も
君くれなゐのくちびるも
君がみどりの黒髪も
またいつか見むこの別れ
君の行くべきやまかはは
落つる涙に見えわかず
袖のしぐれの冬の日に
君に贈らむ花もがな
26.3.16 東京都清瀬市
高楼(たかどの) 島崎藤村『若菜集』所収
わかれゆくひとををしむとこよひより
とほきゆめちにわれやまとはん
(別れ行く人を惜しむと今宵より 遠き夢路に我や惑はん)
妹
とほきわかれに
たへかねて
このたかどのに
のぼるかな
かなしむなかれ
わがあねよ
たびのころもを
とゝのへよ
姉
わかれといへば
むかしより
このひとのよの
つねなるを
ながるゝみづを
ながむれば
ゆめはづかしき
なみだかな
妹
したへるひとの
もとにゆく
きみのうへこそ
たのしけれ
ふゆやまこえて
きみゆかば
なにをひかりの
わがみぞや
姉
あゝはなとりの
いろにつけ
ねにつけわれを
おもへかし
けふわかれては
いつかまた
あひみるまでの
いのちかも
妹
きみがさやけき
めのいろも
きみくれなゐの
くちびるも
きみがみどりの
くろかみも
またいつかみん
このわかれ
姉
なれがやさしき
なぐさめも
なれがたのしき
うたごゑも
なれがこゝろの
ことのねも
またいつきかん
このわかれ
妹
きみのゆくべき
やまかはは
おつるなみだに
みえわかず
そでのしぐれの
ふゆのひに
きみにおくらん
はなもがな
姉
そでにおほへる
うるはしき
ながかほばせを
あげよかし
ながくれなゐの
かほばせに
ながるゝなみだ
われはぬぐはん