筆と同じように、墨もまた文化大革命により、暖簾の廃止と墨名、図柄の変更を余儀なくされました。多くの墨匠が活躍していたのですが、大きくは清朝二大墨厂の曹素功と胡開文を中心としたグループとに編成されていきました。
上海墨厂 | 歙県徽墨厂 |
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曹素功を中心としたグループ | 胡開文を中心としたグループ |
さらに墨の等級表示、墨名、図柄の変更、新種の銘柄など文革の意向にそって進められました。
旧等級 | 新等級 | 銘柄 | 新種 |
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五石漆煙 | 油煙一〇一 | 鐵齋・大好山水 | 光亡万丈・熊貓・魯迅詩・奮発図強・自力更生 |
超貢漆煙 | 油煙一〇二 | 百壽圖(絢麗光彩) | 長征 |
超貢煙 | 萬壽無彊・指揮如意 | ||
貢煙 | 油煙一〇三 | 天保九如(勁松迎風) | |
頂煙 | 油煙一〇四 | 紫玉光・金殿香 |
図柄の変更では「鐵齋」の國華第一の抹消。「天保九如」の (円)(月)の抹消。「萬壽無彊」の五爪の龍から松鶴の図へ。名称の変更では「百壽圖」から「絢麗光彩」へ。「天保九如」から「勁松迎風」へ。又新種の名称も時代思想を反映したものとなっています。
筆と同様に文革終了後の大量生産体制による品質低下を考える時、この十年間はまだまだ捨て難い魅力をもっています。しかし文革前の墨匠のものと比べればやはり筆と同じという事になってしまうでしょう。
最後に又某工場から伺った話になりますが、多くのベテラン墨匠が追放の憂き目に逢ったとの事や、若い紅衛兵に墨の木型を薪にされてしまった事や、それを食い止める為の苦労話を思い出さずにはいられません。