宇野雪村先生は「古墨」(昭和四三年・木耳社刊)の中で「墨は墨身を磨り減らすことによってのみ己れの務めを果たし得るという悲しい宿命を持っている。墨は愛されることによって身を亡ぼし自己を抹殺することによって生命を顕現するという矛盾の上に成立している」と述べておられます。もとよりこれは文房清玩の立場から古墨をむやみに使用してはならぬという苦言を呈したところでもありましょう。
しかし墨はやはり磨られる事にその役割があります。そしてそれは紙上で美しい文字に姿を変え作者の意を永遠に残すという大きな責務を担っているのです。まさに墨の”使命 “です。
書を学び楽しみ愛するならば迷わず墨を磨りましょう。軽々に液体墨に頼ることなく。