ここでご紹介するのは、桑原翠邦先生が題字を揮毫された墨です。
(墨運堂)古光、玉品、墨精、天爵、無上純黒、無上黒品、秋紅、古松、墨運無彊、玉品(篆書体)
(呉竹)含純、金巻呉竹墨、絶佳呉竹、竹、父天母地、古心、他
(精華堂)天瑞、瑞玉、天、蘭質
墨運堂、呉竹は奈良墨、精華堂は鈴鹿墨です。墨運堂からは昭和六十年に傘寿の記念墨として八稜、丸、長方形三種の「自祝寿長」の揮毫も残されています。
多くの墨の中で翠邦先生のお気に入りと言えば「天爵を使う事が多い」と雑誌「墨」(一九九三年、一〇〇号)のインタビューで自ら語っておられます。この中で先生は、比田井天来先生と墨、中国での墨の体験について語りつつも、「戦後書」の流行にとらわれない濃墨を基調とする磨墨の姿勢を示されています。ここでも筆の時と同様に書に対する揺るぎない一貫性を感じる事ができます。
さて墨は筆とは逆に完成品に名を彫り込むのではなく、揮毫された題字を木に彫り、木型を作ります。木型の材料は日本では山梨や琵琶を、中国では石楠の木です。筆の彫銘師と同じように墨型彫刻師がいます。書かれた文字、描かれた絵図を忠実に木に彫り込みます。題字と図柄によって墨の品格が決まると言っても過言ではありません。翠邦先生の題字の墨がその事を如実に証明してくれています。