文房四宝を楽しむ
せいひぞうぬし
清秘蔵主
早川忠文
墨
墨1 宿命? 否使命!!
宇野雪せっ村そん先生は「古こ墨ぼく」(昭和四三年・木耳社刊)の中で「墨は墨身を磨り減らすことによってのみ己れの務めを果たし得るという悲しい宿命を持っている。墨は愛されることによって身を亡ぼし自己を抹まっ殺さつすることによって生命を顕けん現げんするという矛盾の上に成立している」と述べておられます。もとよりこれは文ぶん房ぼう清せい玩がんの立場から古墨をむやみに使用してはならぬという苦言を呈したところでもありましょう。 しかし墨はやはり磨られる事にその役割があります。そしてそれは紙上で美しい文字に姿を変え作者の意を永遠に残すという大きな責務を担っているのです。まさに墨の”使命 “です。 書を学
続きを読む
墨2 題字と木型
ここでご紹介するのは、桑原翠邦先生が題字を揮毫された墨です。 (墨運堂ぼくうんどう)古光、玉品、墨精、天爵、無上純黒、無上黒品、秋紅、古松、墨運無彊、玉品(篆書体) (呉竹くれたけ)含純、金巻呉竹墨、絶佳呉竹、竹、父天母地、古心、他 (精華堂せいかどう)天瑞、瑞玉、天、蘭質 墨運堂、呉竹は奈良墨、精華堂は鈴鹿墨です。墨運堂からは昭和六十年に傘寿の記念墨として八稜、丸、長方形三種の「自祝寿長」の揮毫も残されています。 多くの墨の中で翠邦先生のお気に入りと言えば「天爵を使う事が多い」と雑誌「墨」(一九九三年、一〇〇号)のインタビューで自ら語っておられます。この中で先生は、比田井天来先生と墨、中国
続きを読む
墨4 文化大革命と
唐墨
とうぼく
筆と同じように、墨もまた文化大革命により、暖簾のれんの廃止と墨名、図柄の変更を余儀なくされました。多くの墨匠ぼくしょうが活躍していたのですが、大きくは清朝二大墨ボク厂ショウの曹素功そうそこうと胡開文こかいぶんを中心としたグループとに編成されていきました。上海墨厂歙県きゅうけん徽墨きぼく厂曹素功を中心としたグループ胡開文を中心としたグループさらに墨の等級表示、墨名、図柄の変更、新種の銘柄など文革の意向にそって進められました。旧等級新等級銘柄新種五石漆煙油煙一〇一鐵齋・大好山水光亡万丈・熊貓パンダ・魯迅詩・奮発図強・自力更生超貢漆煙油煙一〇二百壽圖(絢麗光彩)長征超貢煙萬壽無彊・指揮如意貢煙油煙
続きを読む
墨3 戦後書と「
青墨
せいぼく
」
翠邦先生の揺るがぬオーソドックスな墨のとらえ方に対し、淡墨たんぼくの「滲にじみ掠かすれ」を基調とした戦後書の新たな表現として「大字だいじ書」があります。二〇一三年の毎日書道展の特別企画展に「手島右卿の書芸術─その世界観─」がありました。多くの方がご覧になられた事と思いますが、その表現の重要な役割を担っていたのが「青墨」です。 今では墨の種類と言えば、普通の黒の他に「青墨」「茶墨」と各メーカーにより多種多彩であります。しかし戦前の墨にはその分類表記はありません。もちろん松煙墨しょうえんぼくが年を経て青墨化するという事での青い墨色は古くから存在しています。しかし戦後書の前衛運動の中での絵画的、
続きを読む
墨5 唐墨と和墨
唐墨と和墨の違いは、それぞれの製造方法にあります。
続きを読む