久々の新刊でございます。

 

タイトルは『名筆五体般若心経』、定価は2800円+税です。

 

天来書院を立ち上げて最初の出版物は『名筆五体般若心経』(折帖・全6冊)のシリーズです。一冊3500円+税。

この中で『集空海書般若心経』と『呉昌碩篆書般若心経』はロングセラーとして今も販売していますが、いずれも残部僅少。折帖なので、和紙風の特漉紙を使いましたが、紙の在庫が底をつき、最近は特漉の価格も上がったので重版はとても無理。でもなくしてしまうのも残念なので、これを中心として五体を選び直し、洋装本として発行することにいたしました。

 

楷書は貫名菘翁です。

 

菅原道真950忌に太宰府天満宮から依頼され、揮毫したもの。八曲の大屏風に一字3寸にあまる大字(本書では縮小)で、一点一画もゆるがせにせず書き上げたもの。「虞欧褚顔を打って一丸となし、いささかの痕跡をもつけず」と日下部鳴鶴が跋を書いて激賞しています。玉村霽山先生解説。

 

行草書の最初は比田井天来編「集王羲之書般若心経」です。

よく知られる般若心経は玄奘三蔵訳ですが、その最初の書は、王羲之の筆跡を集めて作られた「集王聖教序」碑の末尾に刻されたもの。集字した当時は王羲之の真蹟もたくさん残っていたので、すばらしい出来栄えではありますが、王羲之が書いていない文字も多く(手紙文に使う文字は限られているし)、ない字は偏旁を組み合わせたり、拡大縮小、たいへんな苦労をしたと思われます。そこで比田井天来はこれをもとにしつつ、喪乱帖などの双鉤塡墨や、澄清堂帖など優れた法帖から文字をとり、般若心経を作りました。自然で高雅な名品として高い評価を得ています。

 

行草書の二番目は比田井南谷編「集空海書般若心経」です。

 

空海が書いたと伝えられる般若心経はたくさんありますが、どれも真蹟ではありません。そこで、比田井天来の息子である比田井南谷は、確実な空海の真蹟から文字を集めて、般若心経を作りました。数カ月はこれに没頭して、作品も書きませんでした(いいのか?)。集字であるにもかかわらず、章法が自然で気脈が貫通した名品だと絶賛されています。

上の部分の最後の行、「法」「相」「不」が風信帖だということはおわかりですね? ほかに風信帖から3字、聾瞽指帰から1字、灌頂記から2字、金剛般若経開題から1字とっていますよ。(どの字がそうかは書籍の解説を見ればわかります)

 

続いて篆書は呉昌碩です。解説は伏見冲敬先生。

 

中国清代末から民国にかけて、大きな光芒を放った巨匠、呉昌碩による12幅の堂々たる般若心経(本書では縮小)です。得意の石鼓文の書風を取り入れて書かれたもので、「自ら視てなお悪態なし」と跋文にあるように、呉昌碩の傑作の一つ。これを習えば篆書のたっぷりとしたよさが身につくと、伏見冲敬先生が書いています。

篆書というと、なんとなく敬遠してしまう方でも、書かれているのが般若心経なので、身近に感じられるのではないでしょうか。上は見開きですが、左ページには「色不異空々不意色 色即是空々即是」(色は次ページ)と書かれています。これなら色紙に書いてもいいかも。

 

さて、最後の隷書は泰山金剛経から文字を集めたものです。解説は駒井鵞静先生。

 

中国北魏の次の北斉時代の書だと言われています。悠揚とした、おもしろい字形ですね。この時代は仏教が弾圧されたので、仏の教えを後世に残すべく、この付近の山々に巨大文字の経文が刻されているんですよ。(参考「北朝の摩崖」)

 

泰山金剛経は中国の名峰、泰山の中腹に刻されています。(ロープウェイで頂上に登った人は見ることができません)

 

こんなふうに、金剛経が刻されています。現在では九百字ほどが見えるといわれています。サイズは一字40センチ四方。

 

西暦2000年に撮った写真です。このときは、時間を決められて降りることができました。延々と続く大きな文字に、ただただ唖然! 日本ではありえないすばらしい経験でした。

 

 

さて、折帖「名筆五体般若心経」を発行した時(天来書院を設立した年でもあります)、書壇を代表するすごい先生方から推薦文をいただきました。

推薦してくださったのは、青山杉雨先生、石橋犀水先生、植村和堂先生、宇野雪村先生、加藤湘堂先生、金子鷗亭先生、北川博邦先生、桑原翠邦先生、小坂奇石先生、駒井鵞静先生、鈴木桐華先生、高木訷元先生、山崎大抱先生。

 

青山杉雨先生の推薦文を引用させていただきます。

 

天来書院の活動に期待する    青山杉雨

書学院出版部は、比田井天来先生の遺志を受けて昭和44年に比田井南谷さんが再開して以来、素晴らしい本を次々と作ってくれた。このたび、五体般若心経を製作し、新会社、天来書院から発行するという。なかでも空海の真蹟を集めて南谷さんが編集したものは、集字とは思えぬ名品で、般若心経を書写するためにもっともふさわしい手本と言えるのではあるまいか。天来書院では出版のみならず、書芸術の今後の発展に向けてさなざな活動を予定しているという。まことに楽しみなことだ。書という東洋独自の芸術をさまざまな角度からとらえなおし、その素晴らしさを広く世界に向けてアピールしてほしい。

 

身に余るおことば、本当にありがとうございました。

がんばります!

 

アマゾンでも買えます。

主要な書道専門店に並ぶのは来週ですが、大型書店には並んでいるはずです。なければ取り寄せることができます。

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