展示室、応接間、ダイニングの3部屋を畳敷きからフローリングに変更します。フローリング材は能登原産の能登ヒバという木で別名は「あすなろ」。小学生の頃、学校で「明日は檜(ひのき)になろう」と子供の成長を促すスローガンのような意味で教わった記憶があります。漢字は「翌檜」。特徴は湿気に強く、腐りにくい、耐久性、耐朽性(腐り難さ)をもつ硬い木で輪島塗の木地としても昔から多様されてきました。接角、能登に住むのに洋木や集積材では申し訳ないと思ったからです。無垢材を使うのは一抹の不安(傷がつき易い、伸縮して埃が溜まる等)もありますがメリット(天然素材故に安全、漆の抗菌作用)を重視しました。

写真は急遽、土間に作った塗り台です。輪島塗を入れていた細長い大きな箱とその蓋に脚を付けて突貫工事で作りました。
フローリング板を30枚ほど積んでいます。これでおおよそ8畳間分になります。2枚ずつ置いて塗っていきます。
下の写真は紅殻です。途中で無くなると色が変わるので多めに作りました。

玄関の表札を付けた板と同様に紅殻(べにがら)で着色して、生漆(きうるし)を塗り重ねます。輪島では家の柱や廊下等の床板を紅殻で着色し生漆を塗る習慣がありました。これも近年は少なくなったと思われます。私の実家の柱と廊下も紅殻を塗っていました。ちなみに、紅殻+生漆塗りは大工の仕事、漆塗りだけの場合に「塗師の仕事」という役割分担がなされていきたようです。その為、輪島塗の職人の友達に塗り方を聞いても分かりませんでした。紅殻は以前、赤い紅殻しか見かけなかったのが、近年は紅殻に灰を混ぜたものが主流のようです。色は赤紫になります。

写真は紅殻を2回塗ったものと3回塗ったものです。色の違いが分かりますでしょうか?茶色のが2回、?紫色のが3回塗ったものです。
ちなみに、下の写真は先日行った金沢の東茶屋街です。街並みが紅殻で統一されていました。

紅殻を調べてみると、製鉄原料となる鉄鉱石の一つで酸化鉄といい、「火山の昇華物」として産まれたそうです。能登には酸化鉄を含んだ赤土や珪藻土を含んだ地層が多くあるようです。ちなみに、世界的にはインドのベンガル地方で採れる紅殻は目が細かく最高品質と評価されているようです。「べにがら」ではなく「ベンガラ」と呼ぶのはそこからきているという話もありました。

下の写真(上)は紅殻を1回塗って拭き取る前です。拭き取ると木目が浮き出て木の美しさを引き出します。上手く拭き取らないと拭き残しが残りその部分がムラになってしまいます。
下の写真(下)は紅殻を塗り拭った後。板を乾かして翌日に2回目を塗ります。こんな作業を繰り返します。

塗っていくと木の表面の木目の形状、油分の多少により紅殻の塗りが均一になりません。仕方ないので紅殻を塗り、乾いた時点で1枚ずつ紅殻の乗り具合をチェック。着色が薄い場合には再度塗り直して色を整えます。その為、結局、半分近くの板で塗り直しが発生。フローリング板は全部で110枚。フローリング材は2畳で8枚、6畳間で24枚。10畳では38枚必要になります。それぞれ部屋毎に紅殻の色を合わせるよう部屋を単位にして塗っていきます。

下の写真は生漆です。木のヘラで塗っていきます。当初はホームセンターで買ったゴムのヘラ、プラスチックのヘラを試しましたが、均一に塗れない、強弱を上手くつけれない等の問題があり。漆を買った漆器協同組合の担当者から「これ使ってみたら」と言われておまけに貰った木のヘラが一番しっくりきて中々の「優れ物」でした。

フローリング材は幅が12cm、長さが4mあります。軽自動車よりも長いので塗る前の板を置く場所、塗る場所、乾かす場所、塗った後の板の保管場所が必要になります。幸いに土間が20m近くあるので、玄関を入った所に無垢材を置き、ダイニング、キッチン前の土間を塗る場所、裏口側の土間を乾燥場所、蔵内を塗装後の保管場所にしました。ただ、板を運ぶ際に周りにぶつけないようかなり気を使いましたが、何枚かをぶつけてしまい板の端を割ったり、凹ませたりしてしまいました(涙ー涙)。

下の写真は紅殻を着色後に生漆を1回塗ったもの。少し光沢が出てきました。

下の写真は生漆を2回塗ったもの。光沢も増し色が紫色になってきました。個人的にはこの段階の色が一番気に入っています。

これでおおよそ6畳間分になります。

下の写真は生漆を3回塗ったもの。さらに光沢が増し色も深くついてました。

これで完成です。
1日に濡れる枚数は紅殻だと約60枚。生漆の1回目は35枚、2回目は40枚、3回目は50枚前後でした。塗るだけではなく乾燥の為に何度も狭い場所を往復するので気をうのと最初の3日間は漆の「かぶれ」に悩まされ睡眠不足に陥りました。

表面には艶というか輝きが出てきました。
これまでに30枚を仕上げました。当初に比べると塗るペースも早くなり品質も上がってきました。木のヘラの使い方も分かってきました。今後は家の柱や廊下、棚も自分で塗れそうです。

この段階で大工さんに引き継ぎます。

残りはあと80枚。気が遠くなりますが塗師:忠兵衛、コツコツ頑張ります。