◽️被災状況

晴れやかな新年を迎えた元旦の午後、家族を連れて輪島に帰省しました。
子供達とギャラリーの玄関に門松を飾り終え、これから家族で久しぶりの団欒を楽しもうとしていたところ、突然激しい揺れに襲われ、皆ですぐに裏庭へ避難。息つく暇もなく次に続いた2回目の揺れ(震度「6強」から「7」に修正されました)では、座っていても何度も尻もちをつく程の今までに経験したことがないくらいの大きな衝撃でした。
大きく上下左右に揺さ振る激しい揺れに「これでは建物が保たない」と思った瞬間、二階建てのギャラリーは目の前で土埃を巻き上げて崩壊しました。

◽️ギャラリーについて

ギャラリーは、輪島市内の材木商が建てた築100年の商家の古民家で、ふんだんに良木を使い、内装では漆喰と加賀弁柄(東大の赤門でも使用)を使った朱色の壁がとても魅力的な建物でした。2007年に起きた能登半島地震(震度6強)ではびくともせず安心していましたが、一瞬にして崩れ落ちる様子を目の当たりにし暫くは現実を受け入れることが出来ず本当にショックで呆然としてしまいました。

折しも輪島市内に残る歴史的価値のある商家の建造物として昨春、市に「景観重要建造物」への認定を申請。今月16日に市の審議会の関係者一行を受け入れる直前のことでした。これも残念でなりません。

1年半かけて一つ一つリノベーションしてきたギャラリー。弁柄を塗装し、何度も何度も漆塗りを重ねた応接間、離れの床、廊下、天井、好きだった箪笥階段や古い家具。全て倒壊し、屋根瓦や壁の下敷きになってしまいました。

◽️街の被災状況

夕方、家族を避難所へ避難させた後、友人達の安否が心配で何人かの友人宅を廻りました。その途中、変わり果てた街の姿に愕然。至る所に倒壊した家、崩壊し倒れたり傾いたビルがありました。比較的新しい家は無事だったものの、街を支え続けた古い商店の建物は軒並み潰れ、歴史的な価値があった古民家はほぼ全滅していました。

そして街を覆い広がり続ける火事は冬空を赤く染め、時より空砲のような爆音が響き渡りました(プロパンガスの爆発)。火の粉が50−60m上昇しながら群れをなし、夜空を漂っています。そしてゆっくりと舞い降りてゆく。大空で煌めき儚く消えゆく姿は、まるで巨大な打ち上げ花火(枝垂れ柳)を見ているかのようでした。

観光の目玉であった朝一通り。そこにある友達たちの店舗や住宅はすっかり焼け落ち、街は一面壊滅状態。職人仲間たちの家は跡形もなく倒壊し、見慣れた景色の変貌ぶりに、悪い夢を見ているかのようでした。

※写真は朝市通りの入り口付近です。

◽️今、できること

地震により道路が分断され、地震直後は支援物資や救助の車両が入りにくく、どこも孤立状態が続いていました。今現在も復旧支援が行われています。まだ先のことを具体的に考える余裕はないですが、今は倒壊した建物の撤去を第一優先に作業しています。屋根瓦や柱が想像以上に重く、一人ではびくともしません。瓦礫の撤去だけでも相当な時間と労力がかかりそうです。インフラの復旧も目処が立たず、通行規制が敷かれている中、何をするにも厳しい状況ではありますが、今は出来ることを少しずつでもやるしかないと思っています。

◽️復興への願い

輪島塗は漆芸品で唯一、国の「重要無形文化財」に指定されています。日本の伝統工芸の頂点の一つである輪島塗の技術伝承をここで途絶えさせる訳にはいきません。年配の熟練職人の中にはこれを機に廃業する、或いは勇退する者も出てくることも予想されます。私の作品作りを分業している輪島塗の職人の仲間たち全員がモチベーションを取り戻し仕事を再開するには少し時間がかかりそうですが、輪島塗と輪島の街を必ず復興させなければと自分を奮い立たせています。

これまで衰退を続ける輪島塗産業の現状を垣間見る度に(子供の頃に沈金師を夢見たものの挫折。会社勤めを全うした苦い思いから)「自分でも作品を作り、輪島塗の伝統を次の世代に継承していきたい。故郷の役に立ちたい。」との思いで輪島に戻ってきました。それがまさかこれほどの試練が待っていたとは思ってもみませんでした。心が折れそうになっていたところ、皆様から心温まる励ましのメッセージやお見舞いを多数いただきました。とても有り難くこの場を借りて御礼申し上げます。

※下の写真はテレビ局の取材を受けた時の映像です。色々な質問を受け真摯に答えたのに放映されたのは瓦礫の山を捜索しているところと「石油ストーブがほしい」と言っている場面だけでした。自治体の対応に対する核心を突く要望はカットされていました。マスコミとは自分たちの作ったシナリオに現地で聞いた話を切り取り嵌め込んで番組を作っているのが分かりました。

◽️輪島塗の再起のために

一つの作品は何人もの職人の手を通して作られています。
私が出来ることは、今後も一人でも多くの人に輪島塗を手にとって頂けるような魅力溢れる作品をデザイン、設計をすること。それを輪島の職人仲間たちと一緒に作り上げていきます。新しい作品を生み出すことで輪島塗に携わる多くの職人の一助になればと考えています。今後も本物の漆器が持つ魅力を内外に広く伝えるとともに、漆芸を多方面から評価して頂けるよう漆器の用途の新たな提案をして微力ながら日本の伝統工芸の維持・継承に貢献できればと思います。

◽️忠兵衛の作品を支えるパートナー

忠兵衛の作品を支えるパートナーをご紹介します。今後、売上の一部をパートナーの復興に寄付させていただきます。そうすることで被災したパートナーの皆様の職場や設備の復旧につなげ1日も早い復興を願っています。

◽️皆様へのお願い

倒壊から免れた作品はHP内のオンラインショップで販売しています。

『輪島塗と螺鈿』https://chubay-japan.myshopify.com

何としても輪島を復活させたい。そのためには皆さまに作品をご購入頂くことが何よりの力となり、輪島塗産業全体の再起に繋がります。今回の被災は輪島塗に携わる関係者の最大の試練と捉え、皆で連携を密に知恵を出し助け合いながらこの難局を必ず乗り切って参ります。輪島塗は初めてだという方にもこれを機に是非使ってみてください。他の作家や塗師屋さんが作った商品も販売しています。併せてこれまでギャラリー展示用に大切に保管してきたビンテージ品につきましても一部を放出しギャラリー再建費用に当てます。いずれも輪島の未来のためにご購入お願い致します。

※在庫のない商品につきましては、4ヶ月から8ヶ月後の納品を予定しています。復興の進捗次第では少しお時間がかかる場合がありますのでその点を予めご理解、ご了承願います。

どうか皆さまには御力添えを頂けますよう、御支援、御協力のほどよろしくお願い申し上げます。

細谷忠兵衛