輪島塗の巨匠:三谷吾一※の茶箱「紅葉沈金」
個人的に一番好きな輪島塗の沈金作家です。これまでにブログで何度か作品を紹介させていただきました。

※三谷吾一(みたにごいち)1919年ー2017年
輪島市出身。輪島塗の沈金作家。蕨舞洲、前大峰(人間国宝)に師事。
位階は正四位。勲等は勲四等。日本芸術院会員、文化功労者。
日展理事、現代工芸協会常務理事、輪島塗保存会会長を歴任。

次は棗です。
この作品は3年前に掲載させていただきました。我が家の家宝の一つです。
楓の赤い葉と黄色い葉が重なり合う立体的な構図。直径わずか7cmの中で紅葉の世界が広がっています。

他には菊や紫陽花の作品もあります。彼の作品は輪島塗に西欧的な絵画のような表現を取り入れ「モダン」を感じさせる斬新さがあります。
紫陽花の衝立はかなり大きく迫力があります。

写真は三谷吾一氏が1995年度の文化勲章・文化功労者の表彰式の茶会の席の貴重な三コマです。式には当時日本工芸会の総裁を務められていた秋篠宮ご夫妻の長女:眞子様も参加され、三谷吾一に声をかけています。この時、三谷吾一は95歳とご高齢で少し耳が遠かったのかも知れません。

「輪島塗で好きな自分の絵を描く」。自らの絵を表現するために必要な技術と技法を模索し続け、繊細な諧調表現を可能にするプラチナ箔、アルミの粉に着色したエルジー粉、酸化チタンや酸化鉄を用いて雲母に着色したパール粉等々、新しい素材の金属粉を沈金に取り入れました。十数年の研究のうちに、異なる金属粉同士を組み合わせることでより明るく柔らかな中間色を開発。それに線彫りと点彫りを複雑に組み合わせる技術の開発に成功しました。

その独特な中間色を使った表現は従来の沈金技法とは一線を画し「三谷沈金」「三谷カラー」をよばれるようになり、油彩や版画とも異なる独自の世界を構築しました。

上の写真は晩年の作品です。光っている部分はプラチナ箔です。本当にこれが輪島塗なのか?という斬新的な作品です。

下の記事は平成15年の現代工芸家、工芸作家の作品の評価です。作品の売価を30.5cm平米の面積に換算した評価です。勿論、これは全ての作品が対象という分ではなく最高額という意味のようです。それにしても700万円とは凄いですね。

文化功労者の受賞がとても嬉しくそれを記念に作った作品がこの飾皿「歓び」です。この作品、とても気に入っています。三谷吾一は受賞を記念してこの作品をベースに一回り小さな皿を多数作り彼を支えてきたお客様や関係者に贈ったと聞きました。残念ながら彼はこの2年後に天寿を全うしました。

輪島塗では人間国宝は歴代5人。現在3人の作家がいますが、個人的には彼の功績はそれを遥かに越していると思っています。彼が遺した業績は「一人の輪島塗の作家」の領域を越し輪島塗の沈金技法を新たな技術を開発、それを新しい芸術の領域にまで高め上げたことにあります。

写真はギャラリーの裏庭です。
楓もいい鮮やかになってきました。中央にはススキがあり、ドウダンツツジも紅葉しています。左側には茶梅も咲いてきました。

忠兵衛ギャラリーでは輪島塗のビンテージ品として三谷吾一の作品を中心に展示しています。来年からは季節ごとに四季を感じる作品を集めて展示予定です。是非お越しください。