今回は白無垢材のまま仕上げた床に漆を塗ります(上の写真です)。

昨年、三つの部屋を畳敷からフローリングにリノベーションしました。
応接間とダイニングは灰炭入りの弁柄で塗装後に漆塗りして濃い小豆色の床になりました(下の写真です。)

一部屋だけは白無垢材の部屋にしたものの、どうしても床の色が輪島塗の作品に負けてしまうようで相性が芳しくない。お客様からも未完成の部屋なのか?と言われることも多々あり。床に敷いた板を塗るのは身体への負担も大きく、綺麗に仕上がらない等のリスクを抱えながらも思い切って漆を塗ることになりました。

子供の頃、友達たちの家はこの赤い弁柄を使っていたように記憶しています。それが私が中学生の頃(昭和50年前後)に当時の流行りだったのか?灰炭入りの弁柄に切り替わっていった覚えがあります。
輪島市内の漆関連の材料や建築材料を扱う業者に聞くと、現在は灰炭入りの弁柄が主流で昔からある赤い弁柄のニーズは少ないとのことでした。そういう意味で今回は昔ながらの赤い弁柄を使い古典的な輪島の家の色を再現します。

以下は昨年塗り替えた廊下です。こんな赤い色になります。

床に弁柄を塗装します。床が紫がかった赤に変色しました。

日本では江戸時代にインドのベンガル産を輸入したことから「べんがら:弁柄」と名付けられたようです。能登地方は弁柄の原料:酸化鉄になる赤土の地域が多くあったことから輪島でも輪島塗や家の内装に多用されたとものと思われます。
長谷川等伯の代表作「松林図屏風」は彼が故郷の能登に帰省した際に描かれた作品といわれていますが、個人的には彼が墨で描いた松林は能登に見かける赤松、地面は赤土だったのでは?と思っています。私の頭中では彼の墨絵はカラーに変換されています。

ちなみに、弁柄を江戸時代に日本から輸入したのはオランダ人でオランダ語やドイツ語では「bengala」とのこと。家の内装や外装に使用される化学塗料には、身体に有害な化学物質が多く含まれています。それらが原因でシックハウス症候群を引き起こす人が増えてきていることから、近年では身体に優しい建材を選ぶ傾向が高まっています。その点では、弁柄は非常に優秀な塗料です。着色力が強く、耐熱、耐水、耐光、耐酸、耐アルカリ性のいずれにも優れ、安価な上に何といっても無毒で人体にも安全なため用途は非常に多いようです。近江八幡から発した赤こんにゃくの着色にも使われています。この弁柄、手に着くとなかなか落ちなくて厄介ですが皮膚がかぶれることはありません。

弁柄が乾燥した翌日、生漆を塗った後の写真です。

床板の長さは3.6メートル、幅は12cm。それを1枚ずつ生漆を塗って布で漆を拭き取っていきます。
木の表面に塗った漆を拭き取るのではなく力を入れて拭き込む感じです。
10畳の部屋だと板は38枚になります。本来であれば床に貼る前の1枚ずつ板を台の上に固定して塗るものなのでそれとと比べて力が入れ辛くかなり苦労しました。

次の写真は生漆を2回目塗った後の写真です。
下の写真は2回目を塗っている途中です。

午前中から夕方までかかり、身体中が筋肉痛でへとへとになりました。

次の写真は3回漆を塗ったあとです。
いかがでしょうか?
随分、色が濃くなり輝きが出てきました。
漆を3回塗り重ねたので幅12cmの手すりに例えると400メートル超塗った計算になります。

部屋全体が一つの作品になった感じです。漆が乾燥後に輪島塗の座卓を置いてみました。やはり漆を塗って良かったと思いました。

作品が何ともよりゴージャスに見えませんか?座卓は輪島塗の巨匠の一人:角野岩次の座卓「松陽松」です。

谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」の世界です。

ご自宅のリフォームや古民家再生をご検討されている皆様の参考になれば幸いです。