沈金で木にとまるキジを表現。
沈金とは漆塗面に刃物で文様を彫り、漆を摺り込む。そこに金銀箔、金銀粉、もしくは彩漆顔料を充填する技法です。凹部に金を埋める(沈める)ことから沈金と呼ばれ、線彫り、点彫り、片切彫りこるり、引掻き等の彫法があります。

この沈金師は子供の頃は絵描きを目指していたそうです。それまでの輪島塗の既成概念に縛られることなく、むしろ輪島塗を介し自己実現を追求。また、彼は単独で様々な金属片による色表現を習得します。摺り込みに多数の金属粉を用いることでこれまで輪島塗りの定番だった金や銀色だけではなく、青や紫、緑、ピンクに淡く光る色を加えました。

その独自の技法により、沈金を超えて輪島塗りの表現領域を飛躍的に広げ芸術品に高め上げた功労者の一人です。彼は父親よりも一回り年上でしたが、現代的で斬新な作品を多数残しています。ただ、偉大過ぎてか?彼の技法を単発的に継承出来ても、その技法を用いて更に色の表現領域を広げて独自の世界観を構築するような沈金師は残念乍ら出ていないようです。

輪島が生んだ天才の一人だと思います。