象さんの耳打ち
天来書院
象さんの耳打ち
天来書院

奈良墨を未来へ伝えるために−錦光園の挑戦−

■その活動に目が離せない、「動く墨屋」。

 

「クラウドファンディング」の試みが近年、書の界隈でも行われるようになって来ました。

 

(クラウドファンディングとは:投資をつのる新しい形。特定の個人や企業に大口の投資を依頼するのでなく、インターネットを利用して企画に賛同してくれた不特定多数に小規模の投資を募集する。)

 

2021年のある日、突如として声を上げた企画に全国から支援が集まり、目標額をたった1日で達成しました。

企画の趣旨は「1000年以上続く奈良墨の文化と伝統を守りたい」

 

言わずと知れた日本一の墨生産地 奈良では、時代の変遷とともに墨の生産量が激減。

相次ぐ墨匠の廃業にともない、製造技術を伝える貴重な職人の存在も減少の一途をたどっています。

 

そんな中行動を起こしたのは、奈良の墨匠「錦光園(きんこうえん)」の七代目・長野睦(あつし)さん。

長野さん

 

かねてより錦光園では、

「墨にはたくさんの魅力がつまっている。時代が変わったなら変わったで、伝え方があるはず」

との信念から、新製品の開発や、作り手みずからの情報発信を対面・オンライン問わず積極的に行ってきました。

 

このような活動をもっと進めて行き、ひとつの事業としたいとの考えからクラウドファンディングに踏み切りました。

 

そこで集まった資金をもとに、さらに大きな規模での活動を開始しました。

依頼さえあれば体ひとつで全国どこへでも飛んでいき奈良墨の魅力を伝えて回る「すみからすみまで墨のおはなし」、

また墨にあまり触れたことのない人がふと手にとってしまうような愛らしい新製品の開発など、

全国から寄せられた思いに応えるべく多角的な挑戦を日々続けています。

 

■錦光園との出会い

 

今年はじめ、天来書院では大学生スタッフが入社しました。

墨に並々ならぬ関心を持っているという入社したての彼女に、近頃SNSでよく見かける錦光園のことを知っているか尋ねると、なんと東京で行われる「すみからすみまで墨のおはなし」に参加予定だとのこと!
抽選になるほど人気だったところ、幸運にも権利を手に入れたようです。

 

これ幸いと、写真を撮ってきてもらい、初めてのブログまで書いてもらいました。

・参加させていただきました!【すみからすみまで墨のおはなし】

・奈良墨工房「錦光園」さんに伺いました

墨にかける思い、そしてあくまでも伝統的製法に則った品質の確かさを共有した我々はぜひこれを全国へ拡げたいと、何度かやりとりを重ね、今回の2023年秋のセールへと繋がりました。

 

錦光園では小売やインターネットモールでの割引販売はこれまでも基本的に行っておらず、今回のセールは数少ない貴重な機会と言えるでしょう。

 

■定番の銘柄

 

数々のメディア出演を果たし、先鋭的な活動がいま大きな注目を集めていますが、錦光園はそもそも江戸時代から奈良の地で墨をひとつひとつ手作りし続けている伝統的な工房です。

由緒ある工房「古梅園」から明治の頃に独立し、現在は六代目と七代目が協力しながら営んでいます。

その品質は、こだわりの伝統的な製法に裏打ちされた納得の行くものです。

 

▶油煙墨「光輝」

光輝

漢字向きで、濃墨でも淡墨でも使えます。

淡墨の際のにじみと基線のコントラストが非常に美しく、コストパフォーマンスも非常に良い銘柄です。

「光輝」商品ページはこちら

 

▶松煙墨「烏金」

烏金

ふわりとにじむほのかな青みの美しい松煙墨。やはり淡墨でいきたいところでしょうか。実際に使って頂いた感想を聞くと、これが最も人気でした。
(追記2023/12/13)日本で唯一の赤松松煙製造職人・堀池雅夫さんが田辺市文化賞を受賞されました。錦光堂の松煙墨はこの煤を使っています。こちらhttps://kinkoen.jp/hito/horiikemasao/で詳しく紹介されています。

「烏金」商品ページはこちら

 

■物語のある墨

 

その誕生に魅力あるエピソードが隠された墨をご紹介します。

長野さんがこれまで様々な活動を続けてきた中で出会った人々と呼応しながら生まれた、ユニークな製品ばかりです。

 

▶十二支おはじき墨

おはじき墨

つい手にとってしまいたくなる小ぶりな墨にはさまざまな模様が写し取られています。

 

錦光園は「古梅園」から独立した工房ですが、しばらく下請製造を行っていました。

その関係で、奈良にかつて存在したたくさんの工房の木型が遺されていました。

木型はまさに、墨屋の魂。失われた銘柄の貴重な木型を何とか活かしたいと考え、再利用法として考えられたのが、小さな生墨にその木型の模様を写し取って蘇らせること。

その形から「おはじき墨」と命名されました。

 

ただ、今回のセールでの取扱い品は特別です。

いまではたった一人になってしまった木型彫刻師・中村雅峯氏の手による、十二支おはじき墨シリーズのための特注木型を使用しています。

かなや写経、また一筆書きたいときなど少し磨るのに向いています。12個入りで美しい手縫いの袋に入っており、贈答品としても喜ばれること間違いなしです。

「十二支おはじき墨セット(全種12個入り 裂袋+解説書付き)」商品ページはこちら

(※単品販売は現在、天来書院WEBショップでは行っておりません。錦光園様へ直接お問合せ下さい。)

 

▶大和鹿皮膠墨「天鹿」

天鹿

墨の原料として重要な膠(にかわ)。

膠はススの粒子が水になじむよう、また紙に定着するようにするための重要な役割を果たすだけでなく、色味や筆運びを大きく左右します。

膠は墨作りだけでなく、接着剤として文化財の修復にも多く使用されています。

しかし近年、国産の膠はほとんど生産されていません。輸入ものの膠は原料の偽装など問題がある場合が少なくなく、そのような低品質の膠は接着面が剥がれるなど使用に難があります。

 

そこで奈良県の有志が有害鳥獣対策として捕獲された鹿の皮を活用し、信頼できる品質の和膠を製造する事業を始めました。

前述のとおり膠は墨の色味や伸びにも作用しますが、これは薬品などは使わず水にもこだわった純度100%の膠で、発色を損なわないよう配慮してあります。

錦光園ではこの膠を材料として使用し、書く際に最適な伸びを実現するために温度などを試行錯誤した結果、安定して高品質を実現するまでに至りました。

それがこの「天鹿」です。

 

国産の膠に需要が生まれることは、文化財保護にも貢献します。

膠の生産量が限られるため、数量限定の定価販売となります。今年初めて発売される墨です。

「天鹿」商品ページはこちら

 

 

▶銀河

銀河

インパクトのある銘。

絵柄も気になります。

この墨はいったいどのようにして生まれたのでしょうか?

 

奈良市立東登美ヶ丘小学校では、50年後の奈良を考えるプロジェクト「奈良県伝統工芸×東とみプロジェクト」という、児童たちが地元奈良の伝統工芸について、その魅力に触れ、未来へ向けての課題を自ら考え、実際にその解決に向けてアクションを取るという学習が行われており、これに協力を依頼されたのが錦光園でした。

児童たちが自由な発想で考えた奈良伝統工芸の未来を切り拓く解決策のひとつとして「新製品の開発」が挙げられました。

錦光園は、その思いを真正面から受け止め、当初の予定にはなかった実際の製品化に取り組みました。

こうして誕生したのが「銀河」です。

 

墨に親しんだことのない幅広い層に楽しんでもらうための製品というアイデアは、錦光園の考えとも共鳴するものです。銘も絵柄も児童たちが考え、しかもキラキラのラメ入り!

子どもたちの創造性がそのまま固形墨として凝縮されたかのような、思いのこもった墨です。

 

なお、売上の一部は東登美ヶ丘小学校に寄付されます。今後のこのような創造的な取り組みにきっと活かされることでしょう。

今年初お目見えの銘柄です。数量限定のため本来予約販売ですが、今回特別に定価販売を許可して頂きました。

「銀河」商品ページはこちら
(※当銘柄は現在、天来書院WEBショップではお取り扱いがございません。錦光園様へ直接お問合せ下さい。)

 


 

・天来書院では、2023年11月13日17:00までの間、錦光園の墨の中からおすすめの銘柄を10%OFFで販売致します(一部セール対象外品あり)。

筆墨硯紙販売ページ

大量生産品ではなく、ひとつひとつ手間暇をかけて作られていますので、万一品切の場合はご容赦願います。また一時的に在庫切れの場合、取寄に数日お時間を頂きますのであらかじめご了承願います。

 

・錦光園のこれまでの活動実績や、今後の最新情報は錦光園公式サイトへどうぞ。

錦光園公式サイト

 

・錦光園の墨を使ってみた感想をぜひお聞かせ下さい!

SNSに投稿される際はハッシュタグ「#錦光園」を入れて下さると幸いです。

弊社お問い合わせフォームからでも結構です。

長野さんも我々も楽しみに待っています^^