書・六人展 上野の森美術館 9/1〜9/7
書壇の先端を走り続け、現代の書を牽引してきた六人が、大手公募展とは異なる場でいま敢えて問う大作。
「書のひろば」(https://shonohiroba.jp/shodo-news/rokunin/20210831-1.html)にて公開されている各作家のインタビューなどでは、師への想い、後進へ伝えたいことを語り、書の歴史に連なる自覚を感じさせます。
しかしその作品からは、時代の流れの中にありながら「一作家」であることの矜持が見て取れます。ひたすらに「壁」と向き合ってこの展覧会のために打ち込んできた熱量が、場内にひしめき合っているかのようです。
壁というのは比喩としての意味もありますが、何より最大5.0mあるという上野の森美術館の「壁面」を、書で支配しなくてはならないという責務が各作家にあります。それを成し遂げる力は並大抵ではありません。
◆ 鬼頭墨峻先生
古典の世界観でまっすぐ挑んだ鬼頭先生の、目もくらむような緻密な美しさの作品。整然とした中の抑揚に陶酔。
あたたかみのある線の作品。こちらは横に何mあるのか、画角に到底入り切りません。
ちなみに、こちらは展示作品ではありませんが、個人的にレアだと感じる鬼頭先生の詩文書作品です。弊社刊行『愛のフランス詩集』口絵に掲載。意外な一面を見た思いです。
◆ 石飛博光先生
日本語にしか決してできないレイアウトを存分に活かし壁面を楽しくしてくれるこの作品は、谷川俊太郎詩。
『藤原佐理 国申文帖』全臨なんと十四曲屏風! 佐理のリズムを取り込みながら、見事に作品化されています。
国申文の臨書といえば、2年前の佐久全国臨書展での席上揮毫を思い出します。六人展のアイデアはこの頃すでにあったはずですので、重要なテーマだったのかもしれません。
◆ 船本芳雲先生
「雪降り降るる」が降り積もる。 船本先生は自詠の詩を書かれます。自身の心に湧いた言葉をそのままに。
「私のキャンバス」シリーズ。感動を鮮やかに切り取り、見る人に直接届ける手紙のような作品。
船本先生には天来書院の「書道テレビ」にご出演下さったことがあります。数々の作品をその場で仕上げて下さいました。書作の楽しさを多角的に伝えて下さる先生です。
◆ 辻元大雲先生
宗左近の剛健な言葉のイメージを映すような、重厚な筆致の書。
かたや流麗でにじみの美しい書。詩は先にご紹介した『愛のフランス詩集』編者の吉田加南子先生。
両極端とも言える作風を自在に操る力の秘密は、やはり臨書で培った筆力にあるのでしょうか。
◆ 仲川恭司先生
美しい淡墨に託した、圧倒されるような壮大な規模の作品。その色もサイズも、写真ではどうも伝わりません。
こちらも大きな作品ですが、拡散せずぐっと凝縮しているように感じます。ひとつひとつが力をみなぎらせ、表情があり、「個」であると同時に「集団」でもあるような不思議な構成は、他の大作とは違った魅力です。
【2021/9/3追記】仲川先生も「愛のフランス詩集」に書き下ろしの作品をご提供頂いていますので転載しました。大字書に比べるとかなり抑えた筆致で、詩の世界に寄り添うような表現になっています。
◆ 柳 碧鮮先生
先生は隷書や古代文字の作品が印象的ですが、こちらは楷書の「飲中八仙歌」です。北魏の書のような素朴な味わいがたまりません。
「雲龍風虎」。理知的でありながらおおらかな大字書の連作です。墨色の違いを見ていただきたくて位置を編集しているのですが、実際には4つ横並びで余裕を持って展示されています。
DVD『筆墨硯紙のすべて(2)墨を極める』にもご出演下さっています。墨に対するこだわりは驚異的です。書道テレビにご出演の際、何時間もかけて墨を擦るのを「楽しい」とさらりとおっしゃっていたのを思い出します…
書作家としての理想の追求をまだまだやめない六人の先生方の試みの数々に心を打たれます。
9/6まで毎日、午後2時より先生方のフリートークがYouTubeで配信されていますので、そちらも注目です。(https://www.youtube.com/channel/UCe-kLEZKhIDgdFbElx6nltg/featured)
この時期出かけることが難しい方にはおすすめです!