比田井天来は「臨書」をことのほか重んじました。
自分の癖を克服すること、また古典の多彩な表現と高雅な精神を自身のものとすること。唯一、徹底した臨書の鍛錬だけがそれを可能にすると説いています。
天来の門人たちは臨書の重要性を理解し、それぞれが鍛錬の末に戦後の新たな書を切り拓いていきましたが、そんな中で最も古典臨書にこだわったと言えるのが桑原翠邦先生(くわはらすいほう 1906‐1995)でした。
作風は古典に立脚した正道であるがゆえに、わかりやすい言葉で語られるのを退けるものですが、高雅なたたずまいの中にうごめくような力を感じる筆力と、小品も大作も思うがままの圧巻の構成力は群を抜いています。
目指したものはあくまで「古今を貫く書法」「着実・中正な書道のあり方」(書宗巻頭言集)であり、”前の時代から「書道」をうけつぎ、次の時代に書道を引きつぐために、あく迄も精進し、挺身しなければならない”(同)との考えを実践していました。
そんな桑原翠邦先生が創立された「書宗院」の展覧会に行ってきました。
題に小さく「古典臨書展」と銘打ってあるとおり、この展覧会は「臨書作品」限定となります。
桑原翠邦先生の臨書作品(手前2点)。あえて原本よりもたっぷりとした豊かな線で書かれています。
客員の作品もすべて臨書です。以降、理事と続いていきます。(容量の都合で少ししかご紹介できずすみません;)
7月4日(日)には、弊社会長・比田井和子の講演が行われました。詳しくは→こちら
書学院蔵の古碑帖拓本が特別展示されています。
ガラスケース奥の金文の拓本は「墨皇帖」です。
呉大澂から日下部鳴鶴へ、そして比田井天来の手に渡ってきたものです。
開通褒斜道刻石の拓本(中央)はいつも人気です。
こちらも特別展示。中林梧竹、桑原翠邦、比田井南谷、石田栖湖各先生方の臨書作品。
中央は金子鷗亭先生、左の軸は松方正義の臨書作品。初公開です。
日々幅広く古典を臨書し、書の深奥に触れんと研鑽を重ねる会員の皆さんの作品を見ていると、書は「競う」ものではなく、対峙するものはあくまで古典であり、作品を世に問うことは自身の力の定点観測なのかもしれないという気がしてきます。