この御町内にも、実は一匹だけ、時々は見かける三毛猫がいることはいるのです。
越して来てすぐに、数軒先のお宅の塀の上で休んでいるのを見かけました。
ちょっとおでこで、音楽室に掛かっているドヴォルザークを思い出しました。
「これは仲良くなれる!そのうち写真も撮らせて貰って…」と期待していたのでしたが。
引越しの御挨拶回りをして、御町内の犬比率が高いことは判っていました。
前のお家も、後ろのお宅も斜向かいにも元気なワンちゃんがいて、お蔭で獣医さんの事情は
よく教えて貰えました。しかし御挨拶した範囲のお宅には、どちらにも猫はいません。
ドヴォルザークは御町内のどこかの飼い猫なのでしょうが、お隣近所ではなかったのです。
そして、その後もずっと、週に二度くらいはバス停と我が家の間の坂道で、
トコトコ歩いて来るのにすれ違ったりするのですが、逃げるでもなく、こちらが見えて
いないのかしらと思うくらいに完全なる無視で、ぜんぜんお話してくれないのです。
よく躾けられていて、知らない人と話さないと決めているのか、人間と付き合う気が
もともとない猫なのか、話し掛けてもちっとも返事をしてくれません。
時間を掛けて親しくなれば、と思って、根気強く声を掛け続けてまいりましたが、
一年半にもなると、もう付き合えないのかな、諦めかけています。
“ オ庭ニ ネコ コナイネ ”
“ オサンポノワンチャン イッパイトオルケドネ ”
そのほかに住まいの近くでこの一年半で見かけた猫は、公園を横切るスタイルの良い
茶色猫。梅雨の頃、我が家の駐車場に現れた茶縞ネコのふたり連れ。雨宿りだったのかも
知れません。
最近、その猫たちの居場所はわかりました。少し離れた坂の下のお家の飼い猫さんで、
我が家の辺は普段の遊び場にはなっていないようです。
御近所に遊び友達ネコのできないまま、秋は進んでゆきます。
山の兎は
長い耳
立ててひつそり
聞いたろう
山の小萩は
ほろほろと
花をこぼして
吹かれたろう
水谷まさる「秋風」(『歌時計』)より抜粋