杉山神社―円筆

神.jpg梧竹85歳の作「杉山神社」。Kさんが感想を述べた。鎮守様のこんもり茂った杉木立の参道をさくさくと砂利を踏んで歩を進める、この書はあの森厳の空気を描いているのですね。

 

 

杉山神社書幅2.jpg
京都のH先生が、これは梧竹翁の傑作ですと力説する。変化に乏しい4文字、2字つづけてのシメスヘン、10本ほどのタテ画。それを篆隷書でも行草書でもなく、真っ向から楷書での真剣勝負。一点一画があるべくしてある、すばらしいの一言。もし「山」の中心タテ画を、ふつうに3㌢ほど短くしたら、Kさんのいう明るく清らかな森厳の気も大半消滅してしまいます。

杉山神社の名は古く延喜式神名帖にみえるが、横浜市内や近隣の川崎、町田あたりに杉山神社が60社以上もあって、どの社が該当するのか定説はないらしい。この杉山神社は横浜市西区役所の北にあって、広い境内にイチョウやケヤキなどが茂る住宅地の小オアシスとなっている。横浜戸部地区の鎮守社で、明治44年この近くにあった海老塚邸に滞在した梧竹が揮毫した。

絵画では、山を描くとき「山がまわる」ことを大切にする。平板な山の形を画面に貼り付けたようではいけないので、山のこちら側の面が立体的に画面から手前に抜け出して迫る描写でなければいけない。それだけでなく、画面の裏側に、目に見えていない山の向こう側のボリュームが感じられるように描かなければいけないというのだ。

円筆と方筆2.jpg
書法でも円筆ということがあって、書線や転折がまろやかな筆法というように解説されている。私はイメージとして、画法で「山がまわる」と同じく、書線を輪切りにすると、切り口が円形となる、竹の幹のように立体的な書線であると考えている。梧竹の書が円筆であるというのは、そこのところがポイントだ。

「杉山神社」は、書論が理想としたイメージを完璧に形象化し、それによって神域の霊気を描写した一級の芸術品だ。

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