逗子から見える江ノ島
横浜に引っ越して一年半が過ぎました。
繁華な横浜駅を過ぎると途端に風景は鄙びて、高低差の激しい地勢に森や林が増え、
谷の底のような、川の上のような、戸塚の駅に電車が滑り込むと、
ああ帰って来た、と思う。この街に落ち着いてまいりました。
街は便利で快適ですし、予想していた以上によいことも多くございました。
鎌倉まで電車で10分、大磯まで30分足らず。仙人が日頃の散歩に通える近さです。
夏の混み合う前に、七里ヶ浜や江ノ島の散歩にも片道30分で行って来られましたし。
この転居はおおむね良かったと思える中で、一つ残念なことは、御近所に
猫の知り合いができないことです。
前の住まいでは実におおぜいの猫と付き合っていましたからね。
舞岡公園の台湾リス
みやとひたちは すっかり横浜の暮らしに慣れました。
というより、始めから別になんでもなく新しい家で暮らしだしました。
“ ベツニ フツウダヨ ” “ フツウダネ ”
「犬は人につく」のに対して「猫は家につく」ということがあるそうで、
引っ越しを心配してくれた知人も多かったのですが、
我が家のふたりは、幸い、それほどの影響もなく、
ここでもすぐに、のんきな家猫ライフの続きが始まりました。
“ヒキツヅキ ベンキョウノ トモ ヤッテルヨ ”
始めの頃は、夜寝る時だけ、寒くもないのに、ふたり私の布団に入って、
みやも、同じお布団の中のひたちを邪魔にせず、左右から私にぴったり
くっついて寝ていました。
それもほんの数日で、間もなくふたりは、新居に自分らしい居場所を決めて
落ち着いたようでした。
“ オヤツノ チカクガ オチツクネ ”
ゴハンは別でも、食卓の集まりには参加したいふたり。
座面が高めの、折りたたみ椅子を使っています。
仙人草
引っ越しの余波もすっかり収まり、 この坂だらけの、しかし緑も多く、御近所も親切で感じよく、
全体としてたいへん快適な街に住み慣れてきて、また秋の風を感じると、ふと懐かしくなるのは、
やはりお別れしてきた街のことです。
猫の森の近く、野原は間もなく秋桜の花盛りでしょう。
秋桜に埋ずまって遠くからオーイオーイと呼んでいたボン子ちゃん。
里山に蔦や葛が色づき始め、足下にはたくさんの団栗。
水の畔の彼岸花。小サギや翡翠、大きなアオサギも。
思い出すと、清瀬の自然は夢のようにきれいでした。
その森や散歩の小径を跳梁するおおぜいの猫たちは、本当に猫だったのか。
耳のとがった、絹糸のようなひげのピンとした、妖精たちだったような気さえします。