2008年1月10日

天来習作帖

 

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比田井天来は、書の名品を紹介するため、たくさんの本を出版していました。しかし天来没後、太平洋戦争が勃発して出版活動は一時中止していました。

比田井南谷が横浜で書学院出版部を再開したのは昭和44年、最初に発行したのがこの『天来習作帖』です。

「あとがき」にはこう記されています。

この天来習作帖は、天来の壮年の力作であって、古法帖研究のまたとない手引きとして、発刊当時の好評もさることながら、年を経て、ますます要望が増していくのに、久しく絶版で、入手が困難になっている。このため復刊を望む声も多く、再販を計画したが、原稿はすでに失われ、その上原版の印刷が悪いため、製版を依頼してみたが到底使用に耐えない。結局、普通の手段では、複製は不可能という結論であった。

ところが、最近わたくしの研究所で、新しい製版技術の開発がすすみ、非常に手数のかかる、面倒な工程を必要とするけれども、どうにか原版以上の再現が可能であるというめどがついた。そこで、この数か月の間、一切の仕事を拗擲して、数本の原本中のもっとも刷りのよい頁を選び合わせ、撮影と製版に没頭した。その結果、仕上りに比べて経費が非常に高くかかる結果になったが、こうしてほぼ満足すべきものができあがり、世にお送りすることができたことは喜ばしい。

仕上りに比べて経費が非常に高くかかる。これが南谷のモットーでした。ほんとにたいへん。経費だけでなく、時間もかけました。『天来習作帖』のときは、顕微鏡でアミ点を書くなどということまでやったんですからね。

まあ、そのへんのことはおいおいご紹介することにして、この努力は報われ、『天来習作帖』は多くの人に絶賛されました。

 

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左から、金文二種・礼器碑・ほ閣頌。

 

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 楷書です。張猛龍碑・九成宮醴泉銘・孔子廟堂碑・雁唐聖教序。

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そして、最後は草書です。王慈柏酒帖・張旭五言詩帖・顔真卿近作帖・米フツ値夜帖。

「近年老人の仲間にはいって、自分の一家法が出来かけてきたためか、臨書が若い時ほどよく似なくなって」と天来みずから書いていますが、原本の核心をとった、天来独自の臨書です。

これ、出版したいのですが、売れないよなー。でも、いつかは必ず重版するぞっ! 

ちなみに、金文、礼器碑、張猛龍碑、九成宮醴泉銘、孔子廟堂碑、雁塔聖教序、王慈柏酒帖(『王氏一門』)はテキストシリーズ、ほ閣頌は知られざる名品シリーズにはいっています。同じシリーズの「米フツ」を作ったとき、な、なんと「値夜帖」紛失! で入れられませんでした。書学院には本がありすぎて、欲しいものほど見つからない。トホホ。

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