中林梧竹 なぜ80歳以降? その4

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今回は(その1)と同じ賈島「尋隠者不遇」、85歳の作。

 

 

 

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驚くべき完成度。
一点一画、文字たちの寸分の隙もない形態と位置。22文字の集合がつくる小宇宙の中で、すべての引力のバランスが形成した緊密な構成。余白さえも、不要な部分は削り取っている。

梧竹は80歳になって、短鋒筆に移った。枝の長鋒から心の短鋒へ。この大きなモデル・チェンジについては、稿を改めて考究したい。

この書を前回までの3作と見くらべよう。
一幅のもつ風合い、雰囲気は(その1)に近似する。85歳の表現は、35年の進化を経て50歳へと回帰した、とみることができそうだ。驚嘆の進化とスパイラルな回帰は、不思議でもあり、ある意味、必然のこととも思われる。ついでに、松、不、知など、ことに松の筆遣い、仮名のイメージが感じられるのではないか。もう一つ。
「梧竹くずし」といわれる独特の草書のデフォルメは、この一幅でも随所にちりばめられている。よく観察すれば、単なる変形ではなく、上記の万有引力の結果として生じる現象と理解される。その意味で、わたしはこれを、デフォルメでなく、リフォームと解する。

さて終わりに、「なぜ 80歳以降?」 の宿題。あなたにには 答案ができあがっていることと思う。筆をもってこの4作の臨書を試みるならば、梧竹書10年ごとの進化のすごさを体感できるかも。

 

第4回 松下問童子の雲.jpg
 「雲」
  字と見るか、
  絵と見るか。
  無心に飛ぶ雲の影、
  空の色までが描かれている。

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