季節に映ることば
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神様の月

渡部 忍

秋のお彼岸も過ぎ、いよいよ10月になりました。
朝晩は肌寒く感じるくらい、秋も深まりつつあります。

茶の木咲きいしぶみ古ぶ寒露かな  飯田蛇笏

猛暑日はまだあるものの、着実に秋の深まりを感じるこの頃です。

10月は、神無月とも言います。
よく聞く説では、出雲大社に神様が集まる月で、他の場所には神様が不在になるから、というものがありますね。

大君の御留守を拜む神無月 正岡子規

神ながら巌ぞ立てり神無月 原石鼎

空畝に月の小さゝよ神無月 日野草城

窗あけて見れば舟行く神無月 正岡子規

降り凪にひそと出舟や神無月 日野草城

神無月ふくら雀ぞ先寒き 宝井其角

菊の葉や紅葉しかゝる神無月 句空

しかし、万葉集には、「神な月」と表記されているそうです。
「な」は現代語で「〜の」という意味であると解釈されていて、「神の月」という意味になるのだとか。
「無」は後に考えられた当て字で、10月は「神の月」であるというのが、現在の主説だそうです。

うつせみの羽衣の宮や神の留守 正岡子規

お留守には何事もなし神迎 正岡子規

ちゝめくや神のお留守の鳩雀 正岡子規

神の留守を風吹く宮の渡舟 正岡子規

野社はもとより神の留守にして 正岡子規

さてはお留守神の林の月なき夜 巒寥松

世の中にしらぬまことや神の留守 狩野玄梅

多羅葉の大樹けやけき神の留守 河東碧梧桐

波晴れて七浦の神みなお留守 日野草城

紅葉焼人なとがめそ神の留守 各務支考

通ひ路の一礼し行く神も留守 松本たかし

しぐれつゝ留守もる神の銀杏かな 高浜虚子

なら山の神の御留守に鹿の恋 小林一茶

留守のまに荒れたる神の落葉哉 松尾芭蕉

神の留守立山雪をつけにけり 前田普羅

10月を、出雲地方では「神在月」と呼ぶそうです。
さすが神話の国ですね。
出雲の各神社では「神迎祭」に始まり、「神在祭」、全国に神々をお見送りする「神等去出祭」が行われるそうです。
神様たちが出雲大社に集まるのは何故?
出雲大社の御祭神の「大国主命」が目に見えない世界の統治を任されていたから。
神様のリーダーの元に、全国から神々様が集結するイメージでしょうか。
そこで神様会議が行われるそうなのですが、どのような議題が出てどのような意見が交わされるのか、聞いてみたくなりますね。

ほのめきも神有月や旅社 松根東洋城

今年の夏の暑さで、野菜が大きな打撃を受けているようです。
「実りの秋」は当り前のことではないのだと感じます。

水煙のあまつおとめがころもでのひまにもすめる秋のそらかな 会津八一

柿の実の渋きもありぬ 柿の実の甘きもありぬ渋きぞうまき 正岡子規

うつろひし菊の香寒き暁におくれて来たる雁がねぞする 樋口一葉

いと酢き赤き柘榴を引きちぎり日の光る海に投げつけにけり 北原白秋

いちじゆくの實を二つばかりもぎ来り明治の代のごとく食みたり  斎藤茂吉

秋の空廓寥として影もなしあまりにさびし烏など飛べ  石川啄木

ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なる一ひらの雲 佐佐木信綱

秋は美味しいものが色々とあり、食が楽しみな時期でもあります。
神様たちの会議を想像しながら感謝しながら頂くのも、楽しいかもしれません。

新米の季節でもあります。
是非美味しい秋をお楽しみくださいませ。

2023年10月1日
     
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