季節に映ることば
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一人一人のルーツ

渡部 忍

日ざしは変わらず強いですが、吹く風や朝晩は秋らしさを感じるようになりました。
9月に入りましたね。
9月といえば、やはりお彼岸でしょうか。
2023年の秋彼岸は、9月20日(水)から9月26日(火)までの7日間です。
9月19日から22日を休暇にすれば、9連休も可能なんですって。すごいですね。

お彼岸は、春彼岸と秋彼岸がありますが、お供えやお墓参りを通してご先祖様を供養する期間、と考えられています。

うまさうに見れば彼岸の燒茄子 正岡子規

ひよりよく奥嶽そびえ秋彼岸 飯田蛇笏

オ萩クバル彼岸ノ使行キ逢ヒヌ 正岡子規

富士は曇り筑波は秋の彼岸哉 正岡子規

梨腹モ牡丹餅腹モ彼岸カナ 正岡子規

日本の仏教では、「此岸」と「彼岸」という概念があります。
西の此岸は、この世で、欲や煩悩にまみれた世界。
東の彼岸は、あの世で、仏様の住む浄土の世界。
此岸と彼岸の間に流れているのが三途の川で、お彼岸の時期は此岸と彼岸の距離が最も近くなるのだそうです。
本来のお彼岸行事は、ご先祖様への供養を行いつつ、仏教修行をすることで自分自身を見つめ直す時期、というものだったそうですが、この世とあの世が近くなり、こちらの思いがあちらの世界に通じやすくなるということで、彼岸=お墓参りという概念が定着したのかもしれません。

山吹の歸花見る彼岸哉 正岡子規

山吹の花歸りさく彼岸かな 正岡子規

万象にしづか日つゞき秋彼岸 原石鼎

風もなき秋の彼岸の綿帽子 上島鬼貫

きらきらと秋の彼岸の椿かな 直江木導

南無秋の彼岸の入日赤々と 宮部寸七翁

記録に残る最古のお彼岸は・・・?
それは、平安時代初期だそうで、無実の罪を訴えて死去した早良親王の怨霊を鎮めるための祈りの行事、とのこと。
その後、「彼岸会」という行事として、春分・秋分を中心とする七日間に開催されるようになり、江戸時代にかけて年中行事として民衆に定着したのだそうです。

曼珠沙華一むら燃えて秋陽つよしそこ過ぎてゐるしづかなる径 木下利玄

舂ける彼岸秋陽に狐ばな赤々そまれりここはどこのみち 木下利玄

音たてて茅がやなびける山のうへに秋の彼岸のひかり差し居り 斎藤茂吉

雲のうへより光が差せばあはれあはれ彼岸すぎてより鳴く蝉のこゑ 斎藤茂吉

お彼岸のイメージと言えば、彼岸花もその中の1つに入るのではないでしょうか。
すっと伸びた茎に咲く真っ赤な花、何となく妖艶な感じもするし、恐いイメージがありましたが、最近はとてもステキなお花だなと思います。
葉だけが先に出て枯れ、次は茎だけ伸びて花が咲く、というスタイルもユニークですよね。
白や黄色など赤以外の色もあります。
我が家の一画にも白い曼珠沙華が植わっていますが、気づくと咲いていて、強健なところも魅力の1つかなと思います。

曼珠沙華ひたくれなゐに咲き騒めく野を朗かに秋の風吹く 伊藤左千夫

家いでて遠くあそべば空はれし秋の彼岸のひと日くれたり 山口茂吉

曼珠沙華そこらく赤き寺の山彼岸詣でのかげもふえけり 北原白秋

岬にて三原の山と向ひつつ哀れなる火となる彼岸花 与謝野晶子

現代では、お墓参りをしたいけれど遠方で叶わない、という方も多いのではないかと思います。
自分のルーツ、ご先祖様に思いを馳せながら、秋の夜長をゆっくり過ごすのもいいですね。
ご先祖様も嬉しく感じてくださると思います。

みなさま、ステキな秋をお過ごしください。

2023年9月7日
     
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