季節に映ることば
季節に映ることば

秋の虫は唄う

渡部 忍

残暑お見舞い申し上げます。

日中は30度を超える日が続いています。
先日、夜になって気づいたことがありました。
虫の声が聞こえるのです。
暑い日が続いていても、秋は確実に来ているんだと感じました。
秋の虫の声は何とも美しく、夜のひとときを過ごす心地良いBGMですね。

鳴く虫文化にも歴史あり。
奈良・平安時代には既に虫の声を楽しむ文化がありました。
当時は貴族階級だけの楽しみだったようです。
万葉集、古今和歌集などにも虫の声が詠まれています。

秋風にほころびぬらし藤袴つづりさせてふきりぎりす鳴く 在原棟梁

我のみやあはれと思はむきりぎりす鳴く夕かげの大和なでしこ  素性法師

蔭草の生ひたるやどの夕影に鳴くこほろぎは聞けど飽かぬかも 作者未詳

庭草に村雨降りてこほろぎの鳴く声聞けば秋づきにけり 作者未詳

江戸時代になると一般庶民に広がり、スズムシを売る人が現れ、一大鳴く虫ブームが起こります。
明治、昭和も鳴く虫文化は続きますが、徐々に衰退していきます。
テレビゲームなどの娯楽が増え、カブトムシなどの昆虫が主流になったからだそうです。
それでもスズムシ愛好家は今でもいらっしゃいますね。

くるゝほどばせをにひゞく虫の声 許六

ころ╲╱と土の鈴なる虫の声 荷兮*

ぬき足に虫の音わけてきく野哉 池西言水

虫の音も神慮に似たり波の上 成田蒼虬

虫の音や夜更てしづむ石の中 斯波園女

           * ころ╲╱ = ころころ

あすは去なん舟に虫鳴く月夜かな 臼田亞浪

人は寝て籠の松虫鳴き出でぬ 正岡子規

虫鳴くや木もなき闇の山一つ 正岡子規

生きもののなげきを虫も鳴きつげる 木下夕爾

とらはれて鳴く虫の音のことならず 木下夕爾

草泉鳴く虫ありてながれけり 飯田蛇笏

菩提樹下籠揺るとなく虫鳴けり 飯田蛇笏

赤とんぼ画を鳴く虫の草の上 大谷句佛

風吹きつのる草原の虫鳴きつのる 種田山頭火

虫鳴くや夕映のまゝ月となり 鈴木花蓑

秋に鳴く虫といいますと・・・

・スズムシ
・コオロギ
・キリギリス
・ウマオイ
・アオマツムシ
・ヒメギス
・カネタタキ

などなど、上記以外にも多くの種類がいます。
皆さんは、どの鳴き声がお好みでしょうか。

こほろぎが清く寂しく鳴き出でぬ雲の中なる奥山にして 与謝野晶子

おこたりて草になりゆく広庭の入日まだらに虫の音ぞする 会津八一

ほそほそと土に沁みいる蟲がねは月あかき夜にたゆることなし 斎藤茂吉

きりぎりす夜寒になるを告げがほに枕の元にきつつ鳴くなり 西行

秋の夜長、というにはまだ早いのではないかと思ってしまう気候ですが、虫たちはそんな気候に翻弄されることなく唄っています。
何とも力強さも感じます。
この鳴き声はこの虫、という風に答え合わせをしてみるのも面白いかも。
虫たちの唄に耳を寄せて、季節の移ろいを楽しむのもいいですね。

みなさま、夏の暑さのお疲れが出ませんよう、ご自愛専一のほどをお祈り申し上げております。

2023年8月25日
     
バックナンバー
季節に映ることば
天来書院ブログ一覧
天来書院
ページトップへ