季節に映ることば
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黄色い宝石

渡部 忍

とうもろこしの季節です。
と言いましても、関東ではそろそろ旬は過ぎたころになってしまいましたが・・・
「とうもろこし」と一言で言いましても、品種は色々とありますね。
粒の白いものや、赤いものもありますが、「とうもろこし」と言えば、やはり黄色なのではないでしょうか。

とうもろこしの原産は、みなさまご存知かと思いますが、アメリカ大陸です。
そして、16世紀終わり頃、ポルトガル人によって日本に伝えられたと言われています。
ポルトガル人のことを「南蛮人」と呼んでいたことから「南蛮黍(なんばんきび)」とも呼ばれていましたが、中国からの「もろこし」という植物に似ており「唐のもろこし」という意味で「とうもろこし」と呼ばれるようになったとのこと。

西洋から伝わったのに、なぜ「とう(唐)」なのかなと思いましたが、なるほど、そういうことだったのですね。

子を負ふて唐秬かぢる子守哉 正岡子規

昼びつしり唐黍ほしならべゆたかな構へ 種田山頭火

もろこしのあさつゆ滴りて機影みゆ 飯田蛇笏

秋暑く曇る玉蜀黍毛を垂れぬ 飯田蛇笏

唐黍をつかみてゆるる大鴉 飯田蛇笏

雨に玉蜀黍畑のきりぎりす 飯田蛇笏

唐秬のからでたく湯や山の宿 正岡子規

唐秬の上に見えたる小城かな 正岡子規

唐黍のうしろに低し寺の壁 正岡子規

唐黍や強火にはぜし片一方 前田普羅

ちなみに中国の植物名は「玉米」なのだそうです。
黄金に輝くような粒の食べ物、まさに「玉の米」ですよね。

草伸びて唐黍の穂に出るなり 河東碧梧桐

唐黍を干すや谷間の一軒家 夏目漱石

唐黍を干していよいよ古庇 石田波郷

唐黍を食ひ食ひ帰るはな火かな 会津八一

唐黍の馳走は熱つきなさけかな 会津八一

唐黍に月鳴り止まず冷まじや 田川移竹

古寺に唐黍を焚く暮日かな 与謝蕪村

もろこしや葉をもり兼て三日の月 宗波

ポップコーンもとうもろこしから作れられるお菓子ですが、普段食べている種類(スイートコーン)とはまた違う種なのはご存知でしょうか?
「爆裂種」というポップコーン向きの種で、完全に乾燥させるのですが、その実もまた違った美しさがあります。
フライパンなどで多めの油やバターで炒めると、一気に弾けてポップコーンになるのです。
かなり弾けますので、蓋をしていないと大変なことに。
出来立てのポップコーンは、とても美味しいんですよ。

しんとして幅広き街の秋の夜の玉蜀黍の焼くるにほひよ  石川啄木

玉蜀黍の穂は思ふことなきやうに夕日の風に揺り眠るかな 島木赤彦

愛しくも握りしめたる玉蜀黍の幹のふくらみに稚き實こもり 中村憲吉

玉蜀黍の葉腋にのびし紅き毛のはぢらひ勝ちに思ひたりけり 中村憲吉

ありがたや玉蜀黍の實のもろもろもみな紅毛をいただきにけり 齋藤茂吉

畑にまつわる詩といえば、宮沢賢治でしょうか。

私にとって、焼きもろこしは、屋台などで身近な食べ物でした。
バーべキューでもお馴染みです。
茹でたのも美味しいのですが、焼いたのも香ばしくてまた別の美味しさが味わえますよね。

強ひてもひとつ
ふさふさ紅いたうもろこしの毛をもぎり
その水いろの莢をむけば
熱く苦しいその仕事が
百年前の幽かなことのやうでもある

    宮沢賢治  〔青いけむりで唐黍を焼き〕より

日中の気温が30度を超える日も増えてきました。
梅雨が明けたら一気に真夏になりますね。
海や川、プールなどの水遊びが楽しめる季節ですが、危険な暑さの時期でもあります。
無理なく、安全に夏の到来を楽しめますように。

2023年7月7日
     
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