季節に映ることば
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水の月

渡部 忍

梅雨らしいお天気のこの頃です。
去年はあっという間に梅雨明けしてしまいましたが、今年はどうでしょうか。
30°を超える真夏日になる日も出てきました。
今年の夏も暑くなりそうですね。

一言で梅雨と言いましても、梅雨の季語はたくさんあります。
「梅雨晴(つゆばれ)」もそのうちの一つ。
雨の多いこの時期に、晴れ間が見えるととても嬉しくなりますね。

梅雨晴や蜩鳴くと書く日記

梅雨晴の朝日に松の雫かな

梅雨晴れて水無月の風窓に吹く

梅雨晴にさはるものなし一本木

入梅晴の朝より高し雲の峰

梅雨晴やところところに蟻の道

咲き満つる葵の花や梅雨に入る

                以上、全て正岡子規

梅雨の季語として、
・梅雨空
・空梅雨(からつゆ)
・走り梅雨
・青梅雨(あおつゆ)
・五月雨(さみだれ)
・梅雨雷(つゆかみなり)
・送り梅雨
・薬降る(くすりふる)
などなど、実に多くの季語があります。

正直に梅雨雷の一つかな 小林一茶

五月雨や十里の杉の梢より 大谷句仏

灯るごと梅雨の郭公鳴き出だす 石田波郷

樹も草もしづかにて梅雨はじまりぬ 日野草城

雲はうて梅雨あけの嶺遠からぬ 飯田蛇笏

落書の顔の大きく梅雨の塀 高浜虚子

落暉ほのと顔に照るらし梅雨の原 渡邊水巴

梅雨貧し花でも真赤に画いてやれ 岡部六弥太

空梅雨の月や古りにし板廂 臼田亜浪

空梅雨の草木しづかに曇りけり 日野草城

「梅雨の月」「梅雨の星」なんて素敵なイメージのものもあれば、「黒南風(くろはえ)」「ながし」(ながし南風ともいいます)というものも。
日本語は実に豊かだと感じます。

梅雨の月閉めわすれたる窓にかな 久保田万太郎

あらぬ山仰げば梅雨の月懸り 飛鳥田孋無公

電報の文字は「ユルセヨ」梅雨の星 西東三鬼

和歌の浦あら南風鳶を雲にせり 飯田蛇笏

黒栄に水汲み入るゝ戸口かな 原石鼎

梅雨ふかき小庭の草に簇りて鳳仙花のくき赤く生ひけり 中村憲吉

我妻は藤色衣直雨に濡れて帰り来その姿良し  与謝野鉄幹

またひとしきり 午前の雨が
菖蒲しょうぶのいろの みどりいろ
眼まなこうるめる 面長き女ひと
たちあらわれて 消えてゆく 
              中原中也「六月の雨」より


淡くかなしきもののふるなり
紫陽花いろのもののふるなり
はてしなき並樹のかげを
そうそうと風のふくなり 
              三好達治「乳母車」より

水の月も残り2週間ほどになりました。
雨のない日は嬉しいですが、水の月らしく、雨を楽しむ気持ちも忘れずに持っていたいものですね。
素敵な6月をお過ごしくださいませ。

2023年6月19日
     
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