季節に映ることば
季節に映ることば

笑う山々

渡部 忍

4月に入り、日中はだいぶ暖かくなってきました。
体を動かしていると暑いくらいです。
入社式、入学式、進級式・・・新しい生活の始まりの月ですね。

風景もすっかり春らしくなりました。
関東では、桜は花弁が散り、葉桜になってきました。桜の若葉もなかなか美しいですね。
私が春を感じるのは、なんと言っても山の色です。
通勤時などに目にする山々の色が、所々パステルカラーの緑になるのです。
山桜なども咲いていて、薄ピンク、黄緑、緑、などが混ざり、とても柔らかい雰囲気になります。
そんな風景を目にすると、まさに山が笑っているように感じられ、ワクワクしてくるのです。皆さんはいかがでしょうか?

故郷やどちらを見ても山笑ふ 正岡子規

高縄やこちが笑へば笑ふ山  正岡子規

牛小屋に牛の新角山笑ふ 皆吉爽雨

腹に在る家動かして山笑ふ 高浜虚子

逆光に山笑ひつつ暮れなづむ 佐藤春夫

「春の山」も春の季語ですね。
少し遠くには柔らかい緑色の木々があり、黄色い菜の花が絨毯のように咲いている、そんな景色が目に浮かんできます。

ざうざうと竹は夜を鳴る春山家 臼田亜郎

どこやらに下駄ぬぎ忘れ春の山 正岡子規

ひとりあそぶ谿の夕冷春の山 日野草城

春山の薄暮の道の灯かな 日野草城

大仏を写真に取るや春の山 河東碧梧桐

大岩の蔭の寒さよ春の山 日野草城

春の山からころころ石ころ 種田山頭火

春の山暮れて温泉の灯またたけり 杉田久女

春山の胎内へ汽車もぐり込む 西東三鬼

春山や鳶のたかさを見て憩ふ 飯田蛇笏

雲なくて聳ゆうすいろ春の山 飯田蛇笏

どこやらで我名よぶなり春の山 夏目漱石

​​神の住む春山白き雲を吐く 夏目漱石

春の山らくだのごとくならびけり 室生犀星

かぐはしき桜の花の空に散る春のゆふべは暮れずもあらなむ 良寛

人にそひて今日京の子の歌をきく祇園清水春の山まろき 与謝野晶子

上つ毛や赤城はふるき牧にして牛馬はなつ春かぜの山 与謝野晶子

萱の芽の青芽の伸びを踏みのぼる春の圓山はおもしろきかも 島木赤彦

背戸川の音のさむけれ向うにてやうやく色ににほふ春山 中村憲吉

春山は杉も青みていつしかと鶯の声が鶸に代りぬ 北原白秋

山とは少々ズレますが・・・
桜に少し遅れて、桃の花の時期がやってきます。
ちょうど今頃が見頃でしょうか。
私の故郷である山梨は桃で有名ですが、電車や車の車窓から見える桃源郷はとても美しく、私の大好きな風景の一つです。

あめふれど霧消す丘べ桃の花 飯田蛇笏

うたゝねの窓に胡蝶やもゝの花 正岡子規

桃咲いて風の日輪たかかりき 飯田蛇笏

桃咲くやあけぼのめきし夕映に 渡邊水巴

烈風や月下にさわぐ緋桃あり 原石鼎

これからの季節、色々な場所で花のイベントが開催されると思います。
新年度を迎え、慌ただしい日常ではありますが、心の栄養にお花を観に出かけるのもいいですね。
存分に春を楽しんでいただきたいと思います。

2023年4月6日
     
バックナンバー
季節に映ることば
天来書院ブログ一覧
天来書院
ページトップへ