季節に映ることば
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神の国のお正月

渡部 忍

12月ももう下旬、クリスマスが過ぎればすぐに新しい年がやってきますね。
子どもの頃は、お正月はとても特別な感じがしたものですが・・・
最近はそんな雰囲気も薄れてしまっている気がするのは私だけでしょうか。
私も若い時はほとんど興味はありませんでしたが、年齢を重ねていくにつれ、お正月の飾りや初詣など、お正月ならではの風習もいいなと感じるようになりました。
やはりお正月は一年の始まりの時、大切に過ごしたいものです。

新年といえば、鏡餅。
2022年最後の記事は、鏡餅の俳句などをご紹介します。

昔は各家庭でお餅をついて鏡餅も作ったのでしょうが、時代の変化や住宅事情などでそういう家庭もだいぶ少なくなったのではないでしょうか。
私は、母の実家でついたお餅が好きでした。
売られているパック餅とは違い、ご飯の粒がかすかに残っている感じが美味しかったのです。

ところで、なぜ「鏡餅」と呼ばれるようになったのか、みなさんはご存知でしょうか?
それは、昔の鏡の形に似ているからだそうです。昔の鏡とは、青銅製の丸型のもので、神事などに用いられました。
鏡餅全体を三種の神器と見立て、鏡餅は八咫鏡(やたのかがみ)、橙は八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)、串柿は天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)とされているのだとか。
串柿を飾るのは関西地方で、関東ではほとんど目にすることはないように思います。
あとは、昆布やスルメイカなど、地域によって飾り方は色々あるようです。

橙の据りがよくて鏡餅 高浜虚子

橙は赤し鏡の餅白し 正岡子規

丸きもの初日輪飾り鏡餅 正岡子規

女の子二人かさねや鏡餅 正岡子規

湖のほとりの玉や鏡餅 椎本才麿

鏡餅暗きところに割れて坐す 西東三鬼

そして、年が明けると、年神様と呼ばれる神様が訪ねてくるという言い伝えがあります。鏡餅をお供えすることで神様と新年をお祝いし、1年の良運を願うという意味も込められているのですって。

今は鏡餅の形をした容器の中にお餅が入っているものが売られていて、便利ではありますが、鏡餅の由来などを知ると、本物を飾りたくなりますね。

鏡餅荒山風に任せあり 石田波郷

正月を出して見せうか鏡餅 向井去来

青黴の春色ふかし鏡餅 佐々木有風

小舟して島の祠へ鏡餅 野村泊月

鏡餅暗きところに割れて坐す 西東三鬼

なかんづく土蔵の神への大鏡餅 長谷川素逝

お正月繋がりで、元旦や初日を詠んだ俳句や短歌もご紹介しましょう。

毎年元旦は晴れの日が多い気がします。
朝、外に出てみると、キンと冷たい空気もいつもと違ってとても静かで穏やかに感じられるのが不思議です。
やはり元旦には特別な何かがあるような気がしてしまいますね。

正月の子供になって見たき哉 小林一茶

去年今年貫く棒の如きもの 高浜虚子

元旦やはげしき風もいさぎよし 日野草城

元旦の日記を筆の初かな 会津八一

元旦の畦のしづかにならびたる 長谷川素逝

元旦や白き雲立つ海の上 会津八一

大月のまゝに元旦こえにけり 原石鼎

元朝や鼠顔出すものゝ愛 炭太祇

元朝や去年の火残る置炬燵 日野草城

あたらしき年にはあれども鶯のなくねさへにはかはらざりけり 詠み人知らず

正月立つ春の初めにかくしつつ相し笑みてば時じけめやも 大伴家持

あたらしき年の初めに思ふどちい群れて居れば嬉しくもあるか 道祖王

あらたまの年の若水くむ今朝はそぞろにものの嬉しかりけり  樋口一葉

あたらしき年のはじめは楽しかりわがたましひを養ひゆかむ 斎藤茂吉

見ゆる限り山の連なりの雪白し初日の光さしそめにけり 島木赤彦

若水を汲みつつをれば標はへしふたもと松に日影のぼりぬ 長塚節


年のはじめに

夢売りは、

よい初夢を

売りにくる。

  金子みすゞ 「夢売り」より

2022年はみなさんにとってどんな一年でしたでしょうか。
私の拙文にお付き合いいただきましたこと、心より感謝申し上げます。
どうぞ良い新年をお迎えください。

来年も何卒よろしくお願い申し上げます。

     
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