季節に映ることば
季節に映ることば

黄金色の世界

渡部 忍


くろがねの秋の風鈴鳴りにけり 飯田蛇笏


新聞の「編集手帳」に載っていた句です。

秋の風に吹かれて鳴っている季節外れの風鈴・・・

季節の移り変わりを感じますね。

関東でも朝晩は10度を切るようになり、大分冷えるようになってきました。

SNSでも紅葉の美しい写真を投稿される方も増えてきました。

私の住む地域の街路樹も、さりげなく葉の色が変わりつつあります。

前回は、「もみじ」の句や歌を集めましたが、紅葉はやはり黄色がなくては赤も引き立ちません。

黄色は私の大好きな色でもあります。

今回は、美しい黄色の風景で楽しませてくれる『銀杏」の句や歌などを集めてみました。


都内でも銀杏並木は色々な場所にあります。
もしかしたら、もみじより身近な存在かも知れませんね。

銀杏の芽み空に飛べば白鳩も 川端茅舍

大銀杏黄はめもあやに月の空 川端茅舍

大銀杏無尽蔵なる芽ふきけり 川端茅舍

木つつきの音や銀杏の散がてら  各務支考

母と子と拾ふ手許に銀杏散る 高浜虚子

梢より銀杏落葉のさそひ落つ 高浜虚子

地にしけるいてふおちばの日をえたる 久保田万太郎

東京の都心の銀杏並木の有名どころと言えば・・・

明治神宮外苑
丸の内
靖国神社
代々木公園

辺りでしょうか。他にもたくさんありそうですね。
学校内や街道、そして公園にも銀杏を楽しめるところが多くあるようです。
全国となると、その数は知れませんね。

銀杏ちる童男童女ひざまづき 川端茅舎

銀杏またく散りしける地蔵たふとけれ 種田山頭火

大銀杏散りつくしたる大空 種田山頭火

蹴ちらしてまばゆき銀杏落葉かな 鈴木花蓑

黄葉初む銀杏雙樹や鵙高音 大谷句佛

枯銀杏空のあをさの染むばかり 竹下しづの女

銀杏散りひろごる中に藪もあり 松本たかし

皆さまのお気に入りの銀杏スポットはどちらでしょうか?
きっと、日常の風景のここが好き!という場所がどなたにもあると思うのです。

大銀杏ひと葉動かず秋雲の晴れたる下に黄なるしづけさ 金子薫園

金色のちひさき鳥のかたちして銀杏ちるなり夕日の岡に 与謝野晶子

銀杏の木額と見ゆるところより光の如く四方に葉の散る 与謝野晶子

砂浜に波の寄るより休みなく落葉をおくる二本銀杏 与謝野晶子

わが友のいのちをはりしこの村の公孫樹はすでに落ちつくしたり 斎藤茂吉

うつしみの吾が目のまへに黄いろなる公孫樹の落葉かぎり知られず 斎藤茂吉

燃えあがる公孫樹落葉の金色におそれて足を踏み入れずけり 中村憲吉

夕づく日眼に傷みあれ樹によれば公孫樹落葉の金降りやまず 中村憲吉

私の子ども達が通っていた保育園の通園路沿い(山間の一本道で、狭いのにトラックも多く行き交う危険な道でもあります)に、ポツリと仏様が祀られている場所があります。
その道路と山の間に田畑と線路、何件かの民家があるのですが、山沿いに一本の大きな銀杏の木が立っています。
車で通る際、その仏様と背後に銀杏の木が重なって見えるポイントがあり、私は銀杏が黄金色に色づく季節がとても楽しみでした。
仏様と黄色い銀杏、それを囲む周りの風景がとても美しい。

銀杏並木のような壮観な風景も素晴らしいですが、そんな自分だけのささやかな紅葉を楽しむのもいいなと思ったりもするのです。

きつぱりと冬が来た
八つ手の白い花も消え
公孫樹いてふの木も箒ほうきになった  高村光太郎「冬が来た」より

そして、銀杏の恵みといえば「ギンナン」ですね。
匂いが強かったり肌がかぶれたり、殻も硬いし少し厄介ですが、ギンナンの栄養価はとても高く、中国や日本で古くから薬として活躍していたのだとか。

逆友を訪ふ岡晴れぬ青銀杏   飯田蛇笏

天神様の祭銀杏が実を撒ける   臼田亞浪

お寺はしづかなぎんなん拾ふ 種田山頭火

乞食の児が銀杏の実を袋からなんぼでも出す 尾崎放哉

銀杏の熟れ落つひゞき嵐くるらし 杉田久女


うれしいなあ。ぼくはきつと黄金色のお星ほしさまになるんだよ。 宮沢賢治「いてふの実」より

今年も残りふた月をきりました。
時の流れとともに、季節も風景も移ろい続けていきます。
皆さまそれぞれの場所で、皆さまそれぞれの季節や風景を楽しんでくださいね。

2022年11月6日
     
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