季節に映ることば
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紅葉もみじモミジ

渡部 忍

秋も深まりつつあります。

自然界の秋の大イベントが始まっていますね。

北海道や東北辺りでは、紅葉の見頃を迎えているようです。

私の住む関東では、11月頃になるでしょうか。

今回は、紅葉の俳句や短歌などを集めてみました。

「紅葉」と書いて「こうよう」「もみじ」と二通りの読み方がありますね。
「こうよう」は木々の葉が赤や黄色に色づいている様子を指し、「もみじ」はもみじの木や葉そのものを指しているのだそうです。

こゝに居て程よき谷のもみぢ哉 成田蒼虬

いただきの一枚さわぐ紅葉かな 前田普羅

いつしかにふじも暮けり夕紅葉 正岡子規

いろいろの紅葉の中の銀杏哉 正岡子規

古寺に灯のともりたる紅葉かな 正岡子規

うすうすと月浴びてあり夕紅葉 鈴木花蓑*

うつらうつら紅葉して行く柳かな 会津八一

かがやける白雲ありて照紅葉 高浜虚子

  * うすうす = 原文は、うす\/(くの字点)

一言で「もみじ」と言いましても、実際には、「もみじ」と「楓」があり、それらは同じムクロジ科カエデ属なのだとか。
5〜6個の深い切れ込みが入っていて葉先が6〜7枚になっているものが「もみじ」、切れ込みが浅く葉先が9〜11枚になっているものが「楓」。
もみじを見ているつもりでも実は楓だった、なんてこともありそうです。
ちょっとややこしいですね。

このもよりかのも色こき紅葉哉 与謝蕪村

さながらに紅葉はぬれて朝月夜 高井几董

しぐれつゝ紅葉のいろの盛りかな 高橋淡路女

しぐれんといてふもみぢ葉すきとほる 下村槐太

つめたう覚めてまぶしくも山は雑木紅葉 種田山頭火

一枝の濃紫せる紅葉あり 竹下しづの女

ちりそめし紅葉日和の甃 川端芽舎

瑠璃鳥の瑠璃隠れたる紅葉かな 原石鼎

秋くれてふかき紅葉は山ひめのそめける色のかざりなりけり 藤原定家

奥山に紅葉踏みわけ鳴く鹿の声きく時ぞ秋は悲しき 猿丸大夫

見る人もなくてちりぬる奥山のもみぢはよるの錦なりけり 紀貫之

散り初めしわが庭もみぢ衰へしものは静かに美しきかな 窪田空穂

鏡なす水のさやけき青ぶちに百千の紅葉ちりてたゞよふ 伊藤左千夫

嬉しくもひとりおくれて見つるかな夕日に匂ふ山のもみぢ葉 樋口一葉

うつそみは常なけれども山川に映ゆる紅葉をうれしみにけり 斎藤茂吉

百千の草葉もみじし
野の勁き琴は 鳴り出す 伊東静夫 「百千の」より

黄葉して 日に日に山が明るくなる 三好達治 「鶺鴒」より

「かえで」は、葉が蛙の手の形に似ていることから「かへるで」後に「かえで」に。
「もみじ」は、動詞の「もみず」に由来し、それが名詞となり「もみじ」に。
万葉歌では「かへるで」「もみつ」と唄われています。

我が宿にもみつ蝦手見るごとに妹を懸けつつ恋ひぬ日はなし 田村大嬢

子持山若かへるでのもみつまで寝もと我は思ふ汝はあどか思ふ  東歌

日常生活の中で目にする木々が紅葉するのを目にするのもなかなか楽しめますが、やはり名所に足を運ぶのもいいですね。
田舎の山々も紅葉しますが、やはり名所の紅葉は色鮮やかで見事です。
今年は「紅葉狩り」を目的にお出掛けになってみてはいかがでしょうか。
この木は「もみじ」なのか「楓」なのか、そんなことを考えながら観察するのも面白いかもしれませんね。

2022年10月19日
     
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