季節に映ることば
季節に映ることば

食欲の秋

渡部 忍

残暑の日もありますが、秋も本番を迎えつつあります。

一番過ごしやすい季節でもありますね。

暑さに参っていた草花たちも、また活力を取り戻す時期でもあるでしょうか。

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「秋」 八木重吉

こころがたかぶってくる

わたしが花のそばへいって咲けといえば

花がひらくとおもわれてくる

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重吉は、秋にどのような景色を見て、何を感じていたのでしょう。

我が家には白い曼珠沙華が植わっているのですが、茎と花芽が伸びてきたなとワクワクしていたら、早朝に一気に咲いていて驚きました。

もしかしたら重吉も、今にも咲きそうな蕾を携えた花たちを目にしてワクワクしていたのかな、などと想像してみたり。

もう少しすると、金木犀が咲き始めますね。 
私が金木犀の香りで思い出すのは、小学校の時の運動会です。
まだ低学年の頃だったように思います。
空には、赤とんぼが群れるように飛んでいました。きっと赤組を応援してくれているんだ、なんて言った覚えがあります。
その他の詳細は覚えていませんが、運動会の雰囲気と赤とんぼの光景は記憶に残っています。
皆さんの香りに誘われて思い出す光景には、どのようなものがあるでしょうか。

あるときは木犀の香をいとひけり 日野草城

木犀に人を思ひて徘徊す 尾崎放哉

木犀の香に染む雨の鴉かな 泉鏡花

木犀の香にあけたての障子かな 高浜虚子

朝飯に木犀匂ふ旅籠かな 正岡子規


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「もくせい」 金子みすゞ


もくせいのにおいが

庭いっぱい。


おもての風が、

ご門のとこで、

はいろか、やめよか、

そうだんしてた。

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「もくせいの灯」 金子みすゞ


お部屋にあかい灯がつくと、

硝子のそとの、もくせいの、

しげみのなかにも灯がつくの、

ここのとおんなじ灯がつくの。


夜更けてみんながねねしたら

葉っぱはあの灯をなかにして、

みんなで笑って話すのよ、

みんなでお唄もうたうのよ。


ちょうど、こうしてわたしらが、

ごはんのあとでするように。


窓かけしめよ、やすみましょ、

みんなが起きているうちは、

葉っぱはお話できぬから。

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「食欲の秋」と言われるように、夏の厳しい暑さを乗り越えると、食べ物が美味しい季節がやってきますね。
新米の季節でもあります。生栗を店頭で見かけると、新米の栗ご飯が頭に浮かび、つい購入してしまいます。
秋の実の句などを集めてみました。

● 団栗

団栗の寝ん寝んころりころりかな 小林一茶

団栗の己が落ち葉に埋れけり 渡辺水巴

どんぐりのいくつ落ちてや破れ笠 正岡子規

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「どんぐり」 金子みすゞ


どんぐり山で

どんぐりひろて、

お帽子にいれて、

前かけにいれて、

お山を降りりゃ、

お帽子が邪魔よ、

辷ればこわい、

どんぐり捨てて

お帽子をかぶる。

お山を出たら

野は花ざかり、

お花を摘つめば、

前かけ邪魔よ

とうとうどんぐり

みんな捨てる。

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● 栗

毬栗の蓑にとゞまる嵐かな 加舎白雄

栗拾ひねんねんころり云ひながら  小林一茶 *

いが栗のはぢける音やけふの月 正岡子規

かち栗もごまめも君を祝ひけり 正岡子規

栗が落ちる音を児と聞いて居る夜 尾崎放哉

仏さまへも落栗の一つ 種田山頭火

本堂へはこぶ足許栗落つる 大谷句佛

瓜食めば子ども思ほゆ栗食めばまして偲はゆ 山上憶良

秋晴のひかりとなりて楽しくも実りに入らむ栗も胡桃も 斎藤茂吉

目にも見えずわたらふ秋は栗の木のなりたる毬のつばらつばらに 長塚節

      * 原文は、ねんねん → ねん\/(くの字点)

● 胡桃

栗鼠のゐてくるみ抱きゐる山路かな 室生とみ子

山深みそれに名たてそ姫くるみ 斯波園女

山川は鳴り禽たけく胡桃熟る 飯田蛇笏

暫く聴けり猫が転ばす胡桃の音 石田波郷

さすらひの伏屋に寒夜の胡桃をわる 中勘助

そこはかとなく日くれかかる山寺に胡桃もちひを呑みくだしけり 斎藤茂吉


● 甘藷(さつまいも)

土われてべにあかこえる藷畠 飯田蛇笏

大土間や畚ぶちあけし藷のおと 飯田蛇笏

うゑをへし拓地の藷に返り梅雨 飯田蛇笏

藷掘りの小童のせて片畚 飯田蛇笏

干甘藷に昨日の日輪今日も出づ 西東三鬼

洗はれて紅奕々とさつまいも 日野草城

霜柱甘藷先生かくれけり 川端茅舎

● 石榴

光こめて深くも裂けし柘榴かな 渡辺水巴

うらなりの柘榴目に濃き一つかな 原石鼎

柘榴が口あけたたはけた恋だ 尾崎放哉

父がくれた柘榴はじめての実が揺れてゐる 種田山頭火

いと酢き赤き柘榴をひきちぎり日の光る海に投げつけにけり 北原白秋

あまのはら冷ゆらむときにおのづから石榴は割れてそのくれなゐよ 斎藤茂吉


● 無花果

いちじくをもぐ手を伝ふ雨雫 高浜虚子

無花果のゆたかに実る水の上 山口誓子

無花果の裂けていよいよ天気かな 原石鼎

いちじくのけふの実二つたべにけり 日野草城

いちじくの実にのぞかれて鶏つるむ 篠原鳳作

無花果に日輪青き兒の戯び 飯田蛇笏

手がとどくいちじくのうれざま 山頭火


● 榲桲(まるめろ)

榲桲や二つもらうて両の袖 文誰

世をすねし様にまるめろゆがみしよ 島田五空

食欲の秋、芸術の秋、気候としても出かけやすくなり、楽しみが色々とありますね。
皆さま、素敵な秋をお過ごしくださいませ。

2022年9月15日
     
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