季節に映ることば
季節に映ることば

はかなさと強さと

渡部 忍

気温もだいぶ落ち着き、すっかり秋らしい気候になってきました。

関東では、田んぼの稲も、実が付いて稲穂らしい姿になっています。

そろそろ栗も出回るのではないでしょうか。

美味しいものが楽しみな季節でもあります。


今回は、秋の代表的な花、コスモスの俳句、短歌などを紹介します。


コスモス(和名:秋桜)は、俳句の季語にもなっているほどポピュラーな花ですが、原産は熱帯アメリカなのだそうです。日本には、明治12年にイタリアから持ち込まれました。

みなさんもご存知のとおり、糸のような葉にひょろりと背も高く、風に揺られて咲いている華奢な印象がありますが、実はとても健強で、痩せた土地でも花を咲かせることができます。

まさに放哉の句「コスモスなんぼでも高うなる小さい家で」がその強さを表現しているように思います。

コスモスの四窓の秋や置扇  飯田蛇笏

コスモスをうまごに折りて我も愉し 臼田亞浪

コスモスなんぼでも高うなる小さい家で 尾崎放哉

コスモスに大空の青さ暮れ初む 尾崎放哉

濱のコスモス短かくて風に赤くて 尾崎放哉

コスモスに蛙とぶ見て秋淋し 原石鼎

コスモスの花はあれども冬の空 原石鼎

コスモスの紅のみ咲いて嬉しけれ 原石鼎

コスモスの乱れふし居り月の下 原石鼎

コスモスの花のしげきに月日あり 原石鼎

最近では、いろいろな色のコスモスが出回るようになりました。
赤、白、ピンク、オレンジ、黄など。

チョコレートコスモスなどは、最近の品種かと個人的に思っていましたが、大正時代に渡来したというのには驚きです。
歴史があるのですね。

コスモスの夕やさしくものがたり 松本たかし

コスモスや夜目にもしるき白ばかり 日野草城

コスモスや妻がやさしく子がやさしく 日野草城

鉄柵の中コスモス咲きみちて揺る 種田山頭火

コスモスに烟るが如し月あかり 久保田万太郎

日曜の空とコスモスと晴れにけり 久保田万太郎

コスモスの花あそびをる虚空かな 高浜虚子

私も庭の片隅の悪条件なスペースにコスモスのタネを撒いてみました。
山頭火の句のようなひょろひょろコスモスをイメージしていたのですが、背が低く茎も細いまま花が咲き始めてしまいました。

タネを蒔く時期や条件が悪すぎたのかも・・・。

ほつとさいたかひよろひよろコスモス 種田山頭火

誰もゐないでコスモスそよいでゐる 種田山頭火

コスモスくらし雲の中ゆく月の暈 杉田久女

コスモスの影ばかり見え月明し 鈴木花蓑

一二輪コスモス刎ねて日和風 鈴木花蓑

コスモスの夕やさしく物語 松本たかし

与謝野晶子は、コスモスを多く詠んだ歌人です。
晶子の歌だけでなく、コスモスの俳句や歌などは、はかなさや危うさをイメージするものが多いように感じます。

こすもすよ強く立てよと云ひに行く女の子かな秋雨の中 与謝野晶子

秋風にこすもすの立つ悲しけれ危き中のよろこびに似て 与謝野晶子

大空の青きとばりによりそひて人を思へるこすもすの花 与謝野晶子

いつしかとこすもす咲きぬ草の中細雨の前のともし灯のごと 与謝野晶子

コスモスの闇にゆらげばわが少女天の戸に残る光を見つつ 斎藤茂吉

コスモスの花群がりてはつきりと光をはじくつめたき日ぐれ 木下利玄

西日さすコスモスのはなの花かげにましろき蝶のまひてをるかな 若山牧水

コスモスは倒れたるままに咲き満ちてりとんぼうあまたとまるしづかさ 土田耕平

いち早く諸葉ふるひし梅が枝に雀がとまり雨のコスモス 北原白秋

和名の「秋桜(あきざくら)」は、秋に咲き、花の形が桜に似ているということから付けられたそうです。それ以外にも、風に揺られて倒れそうになりながら咲く様子が桜のはかないイメージと重なり、秋の桜として愛されるようになったのではないかと個人的に感じたりもしますが、みなさんはいかがでしょうか。

冒頭でも触れましたが、一見ひょろひょろと頼りなく見える容姿の反面、曲がっても倒れても枯れることなく花を咲かせる強さもあるのです。
人に例えると「美しく華奢に見えるけど、しなやかな芯の強さを持つ女性」という感じでしょうか。

「コスモスとお母さま」 桜間中庸

コスモスの 咲いてるお庭
お母さまは せんたくなさる

コスモスの 花より高く
お母さまは 竿をあげなさる

コスモスと お母さまと
せいくらべ せいくらべ
 
コスモスは とても咲いてる
ミルクの色の 雲も浮いてる

開花時期になると、全国各地でコスモス畑が展開されるようです。
はかなさとその裏にある強さにもフォーカスしてみるとまた違った楽しさがあるかもしれませんね。

是非お出かけになってみてはいかがでしょうか。

2022年9月1日
     
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