季節に映ることば
季節に映ることば

地上の太陽

渡部 忍

真夏の代表的な花といえば、なんと言っても向日葵ですね。
向日葵=暑さに負けない元気な花、という印象を持っている方も多いのではないでしょうか?

今回は、向日葵の言葉を紹介させていただきます。
真夏の作品作りのご参考になりましたら幸いです。

向日葵のゆさりともせぬ重たさよ  北原白秋

向日葵に青草の香のたちにけり   飯田蛇笏

向日葵の金色冷ゆれ月の秋   渡邊水巴

向日葵もなべて影もつ月夜かな   渡邊水巴

向日葵の金色冷ゆれ月の秋  渡邊水巴

山畑に向日葵咲きて山よ濃し   松本たかし

日まはりの花心がちに大いなり  正岡子規

草童に向日葵の顔うつろへり  飯田蛇笏

向日葵は、北アメリカの原産で、学名はHelianthus。「太陽の花」という意味なのだそうです。
様々な園芸品種がありますが、野生のものは60種ほどだそうです。
日本では野生というイメージはありませんね。

畑なして向日葵は実になりゆける  臼田亜郎

向日葵にひたむきの顔近づき来  石田波郷

向日葵のほむらのさめて月にあり  鈴木花蓑

向日葵の垂れしうなじは祈るかに  篠原鳳作

青空に飽きて向日葵垂れにけり  篠原鳳作

ひまはりのたかだか咲ける憎さかな  久保田万太郎

海の音ひまはり黒き瞳をひらく  木下夕爾

以前は向日葵といえば、背が高くて花が大きい、花が終わると種がびっしり、というイメージでした。
今回ご紹介させていただいた俳句や短歌、詩は、まさにその大輪の向日葵が目に浮かびますね。
現在は、切り花向けに改良されたものや、矮性のものも多く出回っています。画家ゴッホにちなんだ「ビンセントシリーズ」など、シリーズになっている品種も。八重咲きのものもあるというのにも驚きです。

髪に挿せばかくやくと射る夏の日や王者の花のこがねひぐるま  与謝野晶子

かがやかに我が行く方も恋ふる子のある方もさせ黄金向日葵  与謝野鉄幹

向日葵は金の油を身にあびてゆらりと高し日のちひささよ  前田夕暮

向日葵のおほいなる花のそちこちの弁ぞ朽ちゆく魂のごとくに   若山牧水

向日葵は諸伏しゐたりひた吹きに疾風ふき過ぎし方にむかひて   斎藤茂吉

恐ろしき黒雲を背に黄に光る向日葵の花見ればなつかし   木下利玄

心がちに大輪向日葵かたむけりてりきらめける西日へまともに  木下利玄

私が子供の頃、友達と遊び半分で空き地の隅にひまわりの種を蒔いた事がありました。
その後、しばらくして行ってみると、いつの間にか自分の背より大きくなっていて、大きな花が私を見下ろすように咲いていて、驚いたことがありました。
まさに向日葵の王道、という感じでしょうか。
そんな事を思い出したら・・・
もう時期が遅いかもしれませんが、種を蒔いてみたくなりました。
地上の太陽を我が家にも。

庭に射すつかれた夕日の
はださはり
やすらかに匂ひくれゆく
向日葵の花のつれなさよ  山村暮鳥 「秋の庭園」より

炎天の下
向日葵がはじけていた。  俵青茅 「白日の痴夢」より

ひまわりはぐるぐるめぐる
火のやうにぐるぐるめぐる  山村暮鳥 「歓楽の詩」より

いま五月の空はかくも青く
いま日まわりの花は高く垣根に咲きいでた   三好達治 「灰色の鷗」より

向日葵を題材にされたものは明るいイメージが多いですが、金子みすゞの向日葵に対する視点は、ちょっと違います。
花が太陽の方に向かうのは、そういう理由があったのか・・・と切なくなるような。
皆さまはどうお感じになるでしょうか?
最後に紹介させていただきます。

向日葵(ひまはり)  金子みすゞ

おてんとさまの車の輪、
黄金のきれいな車の輪。

青い空をゆくときは、
黄金のひびきをたてました。

白い雲をゆくときに、
見たは小さな黒い星。
天でも地でも誰知らぬ、
黒い星を轢くまいと、
急に曲つた車の輪。

おてんとさまはほり出され、
真赤になつてお腹立ち、
黄金のきれいな車の輪、
はるか下界へすてられた、
むかし、むかしにすてられた。

いまも、黄金の車の輪、
お日を慕うてまはります。

最近は梅雨が戻ってきたようなお天気ではありますが、夏らしさは当分続きそうです。
花火大会の季節にもなりますね。
夏ならではの行事も、皆さまのお住まいの地域でも色々とあるのではないでしょうか。
是非、夏の作品制作もお楽しみください。

*****
参考書籍
「作品に書きたい花の詩」天来書院→www.shodo.co.jp/books/isbn-279/
・「四季花ごよみ」 講談社

2022年7月14日
     
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