季節に映ることば
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朝顔は天に向かう

渡部 忍

何とも早い梅雨明けを迎え、一気に真夏の陽気になりました。
朝顔もちらほらと咲き始めていますね。

皆様は、朝顔のルーツなどご存知でしょうか?
私は朝顔は大好きなのですが、その歴史はほとんど知らず・・・
ちょっと調べてみました。

江戸時代には観賞用としてブームを起こしたほど親しまれている朝顔ですが、元々は日本のものではなく、奈良時代末期に中国より薬用として渡来したのだそうです(これ以外にも諸説あるようです)。

種の芽になる部分に下剤作用のある成分が多く含まれているのだとか。

漢名では「牽牛子(けにごし、けんごし)」と呼ばれていました。

ただ、奈良時代は、朝に花が開く花をまとめて「朝顔」と呼び、区別が曖昧だったようです。
朝顔(牽牛子)と、朝に咲く花一般としての「朝顔」の区別は、平安時代より徐々に広がっていったようですが、これも諸説あるそうです。

雨二日はや朝顔の芽生かな 欄更

朝がほや一輪深き淵の色  芭蕉

朝顔は水輪のごとく次ぎ次ぎに  渡辺水巴 *

朝㒵や夜明の蜻蛉一つ飛ぶ  増田龍雨

母とゐて朝顔の蕾かぞへけり 鈴木しづ子

            * 原文は、次ぎ次に → 次ぎ\/に(くの字点)

江戸時代に、朝顔の品種改良が盛んに行われていたというのには驚きでした。
それ以降、朝顔はずっと私たちを楽しませてくれる花として愛されてきたのですね。

入谷の朝顔まつりは、有名ですね。
毎年7月初旬に開催されますが、今年も一昨年、昨年に続き休止だそうです。
残念・・・

あさがほの花はぢけたりはなひとつ  暁台

朝顔の紺のかなたの月日かな  石田波郷

朝顔の種もこぼれよ秋の風  大谷句佛

朝顔の蔓のさきの命ふるはす  尾崎放哉

をさならも来よ朝顔の種とらむ  中尾白雨

朝顔のイベントは、入谷以外でも行われているようです。

国立市「くにたち朝顔市」
草加市「草加朝顔市」
江戸川区「小岩あさがお市」

など。
ただ、新型コロナの影響で、小岩は休止するようです。
これまた残念・・・

朝顔のかきねに立てばひそやかに睫にほそき雨かかりけり  長塚 節

朝涼しみ朝顔の花のいろよさのあなみづみづし一輪一輪  木下利玄

朝涼の静けさに見る目の前の瑠璃あさ顔の輪の大きさ  木下利玄

朝顔よ何かほどなくうつろはん人の心の花も香ばかり  藤原定家

朝顔のひとつはさける竹のうらともしきものは命なるかな  芥川龍之介

朝がほの紅むらさきを一いろに染めぬわりなき秋の雨かな  与謝野晶子

朝顔には、

在来種
大輪朝顔
変化朝顔
西洋朝顔
琉球朝顔

など、実に多くの品種や色があります。
皆さまそれぞれにお好みがあるかと思います。
私は、個人的に琉球朝顔が好きです。
去年二株植えてみたのですが、土が悪かったのか、一株は花がほとんど咲かずに終わってしまいました。
琉球朝顔の花は小ぶりでとても可愛らしく、花にやってくる蜜蜂さえも可愛く思えてしまいます。

一輪咲いた朝顔のゆかしさ  江口章子 「彼岸」より

秋の朝顔
ああその花の海のいろ  三好達治 「朝ごとに」より

朝顔売りは
お日さんに追われて歩いてくる  岡本咲子 「朝顔売り」

一りんの
朝顔に
かすかな呼吸のような風  山村暮鳥 「朝顔」より

ついに覚めいしわが夢の
朝顔の花咲けるさま   伊東静雄 「朝顔」より

朝顔市などで売られている行灯仕立ての朝顔も素敵ですが、グリーンカーテンのように一斉に上へ上へ蔓を伸ばしていく姿もとても良いなと思います。
何とも力強いですよね。

まさに天(空)に向かって進んでいくような印象。

開く前の、すんと上に向いて色を秘めている蕾の姿も格好いいのです。

朝顔の月夜に染みし絞なる  渡辺水巴

天の星地のあさがほのつぼみかな  久保田万太郎

あさがほが紺折りたゝむひらく前  橋本多佳子

厳しい暑さが当分続きそうです。どうぞご自愛くださいませ。

素敵な7月をお過ごしください。

*****
参考書籍
「作品に書きたい花の詩」天来書院→www.shodo.co.jp/books/isbn-279/
・「四季花ごよみ」 講談社

2022年7月1日
     
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