季節に映ることば
季節に映ることば

夜空に咲く花々

渡部 忍


暑中お見舞い申し上げます。

真夏らしい気候が続いております。

みなさま、いかがお過ごしでしょうか?

夏の風物詩の一つに、花火がありますね。
コロナの影響でここ何年かは花火大会も休止になっていた地域も多かったと思います。
私の住む町では、今年はお祭りは再開されましたが、花火大会は休止でした。
みなさまの地域ではいかがでしょうか?

夏の季語でもある花火の句などを集めてみました。

花火があがる空の方が町だよ 尾崎放哉

金竜のだらりと消えし花火かな  川端茅舍

夕空にひかりみえきし花火かな 久保田万太郎

花火あぐこの恋ばかり消さじとて  久保田万太郎

赤くあがり青くひらきし花火かな 久保田万太郎

空に月のこして花火了りけり 久保田万太郎

海の月花火彩どる美しき 河東碧梧桐

紫陽花の色に咲きたる花火かな 高橋淡路女

幼子や花火戻りを背に寝たる 高橋淡路女

遅月の出て終りたる花火かな 日野草城

閑けさや花火消えたるあとの星 日野草城

風吹いてかたよる空の花火哉 正岡子規

星はおち月はくたくる花火哉 正岡子規

暗く暑く大群衆と花火待つ 西東三鬼

花火の起源に関しては諸説あるようです。

火薬は古代中国で発明され、「狼煙(のろし)」として使用されていたようです。それが世界中に広まり、日本でも記録上では室町時代からとされているようで、およそ600年の歴史があります。

そして、江戸時代になると、花火を専門に扱う火薬業者が登場します。
花火大会などで、花火が打ち上がった時に観客が「か〜ぎや〜」「た〜まや〜」とかけ声をかけるというイメージが残っていますが、それは江戸時代に登場した「鍵屋」という花火専門業者とそこから暖簾分けした「玉屋」という業者のことのようです。
二大花火業者の両者は競い合い、前出のかけ声はそこから来ているのだとか。

青玉のしだれ花火のちりかかり消ゆる途上を君よいそがむ  北原白秋

のずゑなる三島のまちのあげ花火月夜のそらに散りて消ゆなり 若山牧水

音たかく夜空に花火うち開きわれは隈なく奪われている 中城ふみ子

遠方に花火の音の聞ゆなり端居に更くる夏の夜の月 正岡子規

爆竹の花火はぜちる柳かげ水のながれは行きてかへらず  北原白秋

今ではいろいろなタイプの打ち上げ花火があり、随分とカラフルに華やかになりました。
ニコちゃんやハートマークの花火などもありますね。
音楽に合わせて打ち上げたり、江戸時代の「玉屋」「鍵屋」の職人さんが見たら、花火の進化にさぞ驚くのではないでしょうか。
また以前のように、花火大会が各地で開催できる状況になるよう、願うばかりです。

『花火』  金子みすゞ


あがる、あがる、花火、

花火はなにに、

やなぎと毬に。


消える、消える、花火、

消えてはなにに、

見えない國の花に。

有名な花火の俳句や短歌は、打ち上げ花火を唄っているものが多いように思いますが、手花火を唄ったものも風情を感じられて良いですね。
少し切ない印象を受けるのは私だけでしょうか。

手花火を命継ぐ如燃やすなり 石田波郷

火鉢べにほほ笑ひつつ花火する子どもと居ればわれもうれしも 斎藤茂吉

今年は、テレビでも放映される隅田川花火大会は中止となりましたが、調べてみると、関東だけでも30件以上の大会が開催予定になっているようです。
みなさまも、夜空に咲く花々をお楽しみください。

まだまだ暑い日が続きそうですね。
ご自愛専一の程をお祈り申し上げております。

     
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