季節に映ることば
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名僧のことば・禅語ー中国編

比田井和子

作品を書くときの素材として「禅語」が人気です。

今回は、天来書院のロングセラー『名僧のことば・禅語1000』(伊藤文生編)の中から、1〜4文字までのことばをご紹介します。
禅語が1000句掲載された書籍ページはこちら
なお、「名僧のことばー日本編」もご紹介しています。あわせてお役立てください。

 

「禅」といえば「禅問答」。「禅問答」を辞書で調べると、次のような解説が出てきます。

① 禅宗の僧が悟りをひらくために行う問答。
② 何をいっているのかわからない難解な問答。
 
そうそう、何をいっているのかわからない問と答えを「禅問答」みたい、と言いますね。でも、その場合、「何かの意味が隠されていそう」というニュアンスもある。

簡潔なことばの中に、深い意味が隠されている「禅語」。だから作品に書きたくなる。
それでは、まずは1文字から3文字のことばです。

關 〈カン〉 関門だ。通り抜けならぬ。

點 〈テン〉 そこだ!

咄 〈トツ〉 叱咤する叫び。

露 〈ロ〉 丸出し。全体露呈。堂々たる呈示。


勘破 〈カンパ〉 見破る。本質を見抜く。

看路 〈カンロ〉 気をつけてお帰り(見送りの挨拶)。「看路、看路」とも。

教壊 〈キョウエ〉 あやまった導き方で人を駄目にする。「学術を以って天下後世を殺す」と同旨。

玄機 〈ゲンキ〉 玄妙な機関。常識的な理解を超えた意味深長な言動。

識羞 〈シキシュウ〉 はじを識る。おのれが未熟であることを深く自覚する。

自由 〈ジユウ〉 自らに由る。自己自身をよりどころとする。完全な主体性を確立し堅持する。

説破 〈セッパ〉 説き尽くす。ぶちまけて言う。

咄哉 〈トッサイ〉こらっ!(どなり声)

未在 〈ミザイ〉 まだダメだ。


阿呵呵 〈アカカ〉 アッハッハ(笑い声)。

一隻眼 〈イッセキゲン〉 片目。また、両眼のほかの第三の眼。真実を見抜く眼。頂門眼。「頂門具眼」「頂門上具一隻眼」とも。

可惜許 〈カシャクコ〉 惜しいことだ。残念!「許」は語助で、「ゆるす」というような意味は無い

閑道人 〈カンドウニン〉 もはや修めるべき道の無くなった人。除くべき妄想も求めるべき真実も無い無為無事の人。

看脚下 〈キャクカをみよ〉 足下をしかと見よ。自己の立脚地を見て取れ。

近前来 〈キンゼンライ〉 こちらに来い。

黒如漆 〈くろきことシツのごとし〉 黒漆で塗りつぶしたように真っ黒。一切の分別も判断も受けつけない原初のすがた。「聖人の迷いは漆のように黒く、凡人の迷いは日のように明るい」と言われる。

是什麼 〈これなんぞ〉 何であるのか。何なのだ。問題の根源へ目を向けさせるための鋭い示唆の語。

少賣弄 〈ショウマイロウ〉 ひけらかすな。身のほど知らずの一知半解ぶりを叱る。

惺惺著 〈セイセイジャク〉 しっかりと目を覚ませ。心を引き締めて、しゃんとせよ。

破草鞋 〈ハソウアイ〉 ぼろわらじ。弊履。行脚を長年積み重ねた人にも喩える。

百雜碎 〈ヒャクザッサイ〉 こっぱみじん。一切の相対性が粉々に砕けた状態。

白拈賊 〈ビャクネンゾク〉 白昼のひったくり強盗。なみの盗賊とは別格のしたたかなくせ者。臨済禅師の機鋒の凄まじさの形容。

風顚漢 〈フウテンカン〉 常軌からはみ出ている男。常識の枠に捉われない、奔放不羈な行動力にあふれた人物。

放下著〈ホウゲジャク〉 手放して下ろせ。置け。「放下」は「置く」「下ろす」ということ。ほうり投げることではない。「著」は命令を表す接尾語。

未徹在 〈ミテツザイ〉 また徹底していないぞ。悟りきってはおらぬ。

没滋味 〈モツジミ〉 味わいがない。味もそっけもない。しかし、その味気ないところこそが味わい深いところなのだ、という含み。

〈 〉内は読み方です。音読はカタカナ、訓読はひらがなになっています。
では、続いて4字句です。

安心立命 〈アンジンリュウミョウ〉 おのれを安んじて一生をまっとうする。心身をすべて天命にまかせて迷わない。

随家豊儉 〈いえのホウケンにしたがう〉 暮らし向きが豊かなら豊かに、貧しいなら貧しいなりに。

倚勢欺人 〈いきおいによってひとをあざむく〉 勢いに乗じて人を欺く。

放一得二 〈イチをはなってニをえたり〉 一石二鳥。

一箇半箇 〈イッコハンコ〉 一人かその半分。やっと一人いるかいないかというほどの得難い人物。

放過一著〈イッチャクをホウカす〉 (囲碁で)一手ゆるめる。厳しい追及を一旦さしひかえる。

一刀兩段 〈イットウリョウダン〉 刀のもとに切りすてて真っ二つにする。

一筆勾下 〈イッピツにコウゲす〉 一筆でサッと抹消する。既成の価値や権威に対する断乎たる否定。

風行草偃 〈かぜゆけばくさふす〉 風が吹けば草はなびく。自然に成就すること。

眼横鼻直 〈ガンオウビチョク〉 両目は横に並び、鼻は垂直。人の当たり前な顔つき。

言猶在耳 〈ことなおみみにあり〉 かつて聞いた言葉がまだ耳に遺っている。

因邪打正 〈ジャによってショウをタす〉 相手の不正のおかげでまっとうさを打ち出す。

笑中有刀 〈ショウチュウかたなあり〉 笑顔の裏には物騒な思いが秘められている。

唱拍相随 〈ショウハクあいしたがう〉 歌声と手拍子との息がぴたりと合う。練達者同士の見事な応酬ぶり。

珠回玉轉 〈たまめぐりたまテンず〉 真珠や宝玉が転がるように円滑。円転自在で見事な対応ぶり。

返常合道 〈つねにハンしてみちにガッす〉 世の常とは反対のようでありながら実は道にかなっている。「反俗合真」とも。

顚言倒語 〈テンゲントウゴ〉 ああ言ったりこう言ったり。言語を弄して、話の筋道が通じていないこと。

電光石火 〈デンコウセッカ〉 稲妻や火打ち石の火花。極めて短い時間。また、非常にすばやいこと。

倚天長劍 〈テンによるチョウケン〉 天にも届く長い剣。絶大な威力の喩え。

同道唱和 〈ドウドウショウワす〉 同じ道を行き互いに唱和する。気の合った者同士のこと。

二龍争珠 〈ニリョウたまをあらそう〉 二匹の龍が一つの珠を取り合う。両雄の一騎打ち。

萬法歸一 〈マンポウキイツ〉 森羅万象は一つの根源的な原理にもとづいている。

柳緑花紅 〈やなぎはみどり はなはくれない〉 うららかな春景色。すべてがあるべきようにあるめでたさ。

短い言葉の中に、はっとするような鋭い真理を突いていることばの数々。色紙や小品を書くときにお役立てください。

     
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