白鳥の歌

 RIMG0649.JPG久しぶりで書きます。「山枡さん、ブログの更新さぼってますね!」なんて声などが、いろいろ周囲からかかっていました。済みませんでした。また読んでください。

 さて夏に日本に帰っていましたが、今年も奈良と横浜で声楽のリサイタルをやりました。その事後報告のような形です。


 今年はシューベルトの歌曲集「白鳥の歌」でした。いままでに歌った「美しき水車小屋の娘」、「冬の旅」と合わせて、おかげさまでシューベルトのいわゆる「三大歌曲集」の演奏を完結することが出来ました。大げさに言うなら、これら全てを歌う前の自分と、歌った後の自分を比較すればたぶん歌手としても、あるいはおそらく人間としても、どこかに変化が起こったのではないかという気がします。それだけこれらの音楽は人間存在の奥底につながっているようです。

パンフ表紙.JPG

 「白鳥の歌」、これはそうとう手ごわい相手でした。すごいエネルギーをもって作品に取り組むと、それを作品のとてつもない深みが、ブラックホールのように吸い込んでしまうというような感じです。

 この曲集はレルシュタープの詩による7曲、ハイネ詩による6曲、ザイドルの詩による1曲がという構成です。ハイネの曲集は一曲一曲がすごいインパクトを持っているにもかかわらず、案外自然に流れて次々と歌っていけるのに、前半のレルシュタープは1曲にぶつかっていき、やっと終えて、また力を集めて、気力をふりしぼって次の一曲に進んでいく、というような感じで、かなりしんどい思いでした。

とりわけ難しかったのは「遠い国で」でした。世に受け入れられない者の孤独とあこがれを歌った切々たる曲で、規模も大きく、技術的にも困難。準備の最後の段階まで悪戦苦闘でした。それで本番は、自分でも「どうにかなったかな」と思うところまでいったのですが、後で、ある音楽に詳しい方から、その晩一番のものとして、この曲の演奏を誉められたときには、ほんとうにうれしい思いでした。

お読みの方に、もし当日のお客様がいらっしゃいましたら、この場を借りて、あらためて心よりの御礼を申し上げます。シューベルトの「三大歌曲集」のような音楽は、何度も繰り返し演奏して、はじめていろいろなことが見えてきて、自分の年齢、経験とともにじっくりと深化していくものと思います。ですからまた是非手がけてみたいと思っております。そのときは応援お願いいたします。(写真は井上マリ子さんの手になるプログラム冊子表紙)

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