炒めるか、揚げるか - 玉ねぎの悩み

取り込み09年07月 010.jpg私の好きなドイツ料理のひとつに、「シュヴァーベン風玉ねぎステーキ」がある。

シュヴァーベン地方はドイツ南部のシュトゥットガルトを中心とする。なだらかな丘陵地を中心とした、穏やかな田園風景で、のんびりした雰囲気がある。私はシュトゥットガルト音楽大学で歌曲、オペラなどの勉強をしたので、この近辺を車で走り回ったことも多い。当時はハイデルベルクを本拠にしていて、シュトゥットガルトには、やっと身を横たえられるだけの小さな屋根裏部屋を借りていた。台所もないので外食が多く、そうして憶えたのが「マウルタッシェン」(餃子のような小麦粉の皮にひき肉を詰めたもの)やこの「玉ねぎステーキ」などである。この地方の料理は素朴だが、なかなか滋味に富む。

「玉ねぎステーキ」はその名のとおり、牛肉のステーキに玉ねぎを載せただけのシンプルな料理だが、玉ねぎが牛肉の風味を引き立て豊かに膨らませ、大変美味である。

この料理をレストランなどで食べると、玉ねぎの調理法に二通りがある。油でゆっくり、やわらかく炒めてある場合と、油でパリッと揚げてある場合があり、どちらが正統なのかは分からない。どちらもお肉にピッタリで、甲乙つけ難い。

この料理を見よう見まねで自分で作るようになったが、いつも悩みは、玉ねぎを炒めるか、揚げるかである。

玉ねぎの甘さ、豊かさを味わうなら断然炒めるほうである。しかし揚げたほうのサクサクとした口当たり、ほろ苦い焦げた味も捨てがたい。ううん、どうするか。

 そうこうするうちに、考えついたのが「両方載せちゃう」だった。焼いた肉の上に肉汁などのソースを掛け、柔らかく炒めた玉ねぎをのせ、さらに一番上にサクサクに揚げた玉ねぎをたっぷりトッピングするのだ。これは劇的においしい! ということで山枡風の作り方はこれが定番となったのだった。

 

 

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 読者の参考に作り方を。玉ねぎはかなりの量を使う。1人前で中-大二個は要る。玉ねぎの半量は5mm幅ぐらいの細切りにして植物オイルでゆっくり炒める。少しきつね色になるぐらい。軽く塩味をつけておく。もう半量の玉ねぎは1、2mmのスライス。小麦粉を少しまぶしておく。それを油できつね色でサクサクになるまで揚げる。時間がかなりかかるので辛抱が必要。また最初に油が沸き立って吹き、こぼれて危険なので、様子をみて少しずつ玉ねぎを入れる。油から上げても空中で色は濃くなってゆくのでタイミングに注意。黒く焦げてはいけない。

 

 

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牛肉はランプ肉など。脂肪の少ない肉が良い。霜降りでなく赤身を。まあせいぜい端に薄い脂肪の膜がついているぐらい。厚みは2cmぐらいはあったほうが良い。

 表面は強火で焦げ目が付くように焼き、後はゆっくり中まで温める。肉を焼いた後、温めた皿に置いて、アルミホイルをかけて、数分間熱をまわすのも良い。筆者はミディアムか、ミディアム・レアーを好む。全体はピンク、中心部がすこし赤というところ。塩・胡椒は先に振ってもいいし、焼いたあとにかけてもよい。

 焼いた肉を皿に載せ、バターを少し載せて全体に塗り広げる。肉汁などで作ったソースをかける。わずかに醤油を入れてもいいだろう。炒めた玉ねぎをたっぷり載せる。そこにすこしソースをかけ、その上に揚げた玉ねぎをたっぷり形よく盛る。1階は肉、2階は炒めた玉ねぎ、3階は揚げた玉ねぎ。

 

 

 

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   付けあわせは「シュペッツレ」と呼ばれるヌードル。卵、小麦粉、塩のみで垂れるぐらい柔らかい生地をつくり、沸き立つ塩水に細長く垂らしこみ、1分ぐらいで上げる。これをバターで合える。細かいパン粉をバターできつね色に炒めたものをトッピングするとなおさら良い。これが主食になる。南ドイツ、オーストリアなどでよく食べる名物のヌードルである。

  本場では木の板の上から金属板で細長い形に切ってお湯に落とす。たくさんの穴からトコロテン風に押し出す便利な器具もある。「シュペッツレ」のふわふわと柔らかい口触りは家庭的なほのぼのとした気分にさせてくれる。

 あとは好みで、にんじんのグラッセ、さやエンドウ、さやインゲン、ブロッコリーを茹でたものなどを彩りよく。

 

 肉をかみしめると肉汁が口の中に広がり、炒めた玉ねぎの甘さと、揚げた玉ねぎのほろ苦さが合わさる。感触でいうなら、ギュー、トロリ、サクッが交錯する。おいしそうでしょう。(終り)

 

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