季節に映ることば
季節に映ることば

夏の花々

7回目:渡部忍

7月、文月・・・
田の稲が風に美しくそよぐこの頃。各地で梅雨も明け、いよいよ本格的な暑さとなります。
可愛らしい春の花々は勿論ですが、盛夏を彩る夏の花々にも大いなる魅力を感じますね。

何と言っても夏の花の代表と言えば、向日葵でしょうか。

日天やくらくらすなる大向日葵  臼田亜浪

向日葵に剣の如きレールかな  松本たかし

向日葵の金色冷ゆれ月の秋  渡辺水巴

向日葵の眼は洞然と西方に  川端茅舎

日を追はぬ大向日葵となりにけり  竹下しづの女

輝やかにわが行くかたも恋ふる子の在るかたも指せ黄金向日葵  与謝野寛

天上の陽の色恋うて日向葵は昨日も今日も後追うて咲く  柳原白蓮

向日葵は金の油を身に浴びてゆらりと高し日のちひささよ  前田夕暮

炎天の下
向日葵がはじけていた  〜白日の痴夢 俵青芽

真実一念
ひまわり垂れたり  〜白銀悲光 山村暮鳥

ひまわりはぐるぐるめぐる
火のようにぐるぐるめぐる  〜歓楽の詩 山村暮鳥

日まわり
日まわり
私の胸におくために
この勲章は上出来だ  〜日まわり 三好達治

歳時記では秋の花に分類される朝顔も、誰もが目にする身近な夏の花ですね。
日が高くなるとしぼんでしまう儚い花ですが、その儚さも万人に愛される理由の一つとも感じられます。

朝顔の蔓のさきの命ふるはす  尾崎放哉

朝顔もこんと咲けり明の鐘  横井也有

朝顔は水輪のごとし次ぎ/\に  渡辺水巴

朝顔や夢の浮橋かけ渡し  立花北枝

朝涼しみ朝顔の花のいろよさのあなみづみづし一輪一輪  木下利玄

秋の朝顔
ああその花の海のいろ  〜朝ごとに 三好達治

朝顔売りは
お日さんに追われて歩いてくる  〜朝顔売り 岡本咲子

一輪の朝顔よ
ここに
生きた瞬間がある
生くることのとうとさがある  〜おなじく(朝顔) 山村暮鳥

しずくのなかに朝顔が咲いている  〜オホーツク挽歌 宮沢賢治

蓮も今の時期の花です。池などをびっしりと覆う大型の蓮も、睡蓮鉢で栽培できるような小型の蓮も、神々しい美しさがあります。
水面に浮かぶように咲く睡蓮は、蓮とはまた違った気高さを感じます。

一つづつ夕影抱く蓮かな  高浜虚子

白はちす夕べは鷺となりぬべし  三好達治

仏めきて心置かるゝ蓮かな  菊后亭秋色

蓮の葉押しわけて出て咲いた花の朝だ  尾崎放哉

紅蓮と見れば炎なり
炎と見れば紅蓮なり  〜未定詩稿 芥川龍之介

奈落には つねに一輪の紅蓮が咲いている  〜神人 生田春月


睡蓮は皆花閉ぢつ宵の星  青木月斗

睡蓮や鯉の分けゆく花二つ  松本たかし

睡蓮夜中の池が眼をさましてゐる  尾崎放哉

ゆらゆらうごく
睡蓮の思い沈みて咲くように  〜さみしさ 福田夕咲

他にも夏の花はいろいろあります。
ランダムにピックアップしてみましょう。

紫陽花

あぢさゐの毬より侏儒よ駆けて出よ  藤原鳳作

こころはあじさいの花
ももいろに咲く日はあれど
うすむらさきの思い出ばかりはせんなくて  〜こころ 萩原朔太郎

------



咲きのぼる梅雨の晴間の葵かな  夏目成美

明星に影立すくむ葵哉  小林一茶

-----

アカシヤ

アカシヤや庵主が愛づる喧嘩蜂  竹下しづの女

アカシヤの白い花よ
もの言わぬその花の瞳に何が映る  〜五月の花 荒津寛子

-----

梔子

薄月夜花くちなしの匂ひけり  正岡子規

くちなしの花の
白さよ
くちなしの花が咲いた
白い花  〜日ぐれの花 野口雨情

-----

百日紅

ゆふばえにこぼるる花やさるすべり  日野草城

あかあかと 人は知らじな
百日紅
静かに咲けり  〜山房日記抄 福田夕咲

-----

芍薬

左右より芍薬伏しぬ雨の径  松本たかし

芍薬の蕾をゆする雨と風  前田普羅

-----

鈴蘭

鈴蘭の薄ら冷たくつつましき情もよしとくちづけにけり  岡本かの子

昔より吾あらざりし其世より命ありきや鈴蘭の花  柳原白蓮

-----

ダリア

君と見て一期の別れする時もダリヤは紅しダリヤは紅し  北原白秋

ダリアは私の腰に
向日葵は肩の上に  〜草の上 三好達治

-----

月見草

月見草ランプのごとし夜明け前  川端茅舎

きりぎりすきこゆる夜の月見草おぼつかなくも只ほのかなり  長塚節

-----

撫子

撫子やちひさき花のけだかさよ   上村白之

撫子がさきたる野べに相おもふ人とゆきけむいにしへおもほゆ  伊藤左千夫

-----

昼顔

花は野に咲く 昼顔の
紅く燃ゆるは 火の車  〜その夜 野口雨情

いちめんの昼顔が
色のうすい風の盃をゆすりゆすり
あちこちと咲きまわっている  〜南かぜ 佐藤惣之助 

-----

百合

ひでり空 咲いて鬼百合の情熱は  種田山頭火

われは
シャロンの野花
谷の百合なり  旧約聖書(文語体)

注)俳句・短歌は旧仮名遣い、詩や言葉は新仮名遣いで表記しました。

今回のことばが掲載されている書籍
「花の詩を書く」→www.shodo.co.jp/books/isbn-278/
「作品に書きたい花の詩」→www.shodo.co.jp/books/isbn-279/

2017年7月14日
     
バックナンバー
季節に映ることば
天来書院ブログ一覧
天来書院
ページトップへ