2008年10月15日

比田井南谷

電のヴァリエーションs.jpg今日は、比田井南谷の命日です。ですから今日と明日は南谷特集にします。





一番有名な南谷の作品は、やっぱり史上初の文字を書かない書「心線作品第一・電(でん)のヴァリエーション」でしょうね。
電のヴァリエーション.jpgこの作品を書いたのは1945年、敗戦の年でした。その10年後、こんな文章を残しています。

ちょうど10年前のことである。あの終戦がこの新しい誕生に作用を及ぼしたのかもしれない。しかし心の中のモチーフは容易に形にならない。疎開先のこたつの中で、奇妙な線や点を書いては反古の山を作り、人が来るといそいでしまいこむという自信のなさに私は悩んでいた。これがどのくらい続いたか、突然頭に浮かぶものがあった。それは父の「行き詰まったら古に還れ」という言葉である。古文だ、まず古文にもどろう。そこで『古籀彙篇』を開いた時「電」の字が異様に私の注意を惹き、これを夢中で展開させて『心線作品第一・電のヴァリエーション』となったのである。
電.jpgこれが『古籀彙篇』の「電」です。今もこのページに付箋がはさまっています。
南谷はその後も「文字ではない書」を発表し続けました。

写真2.jpg左から森田子龍先生、一人おいて上田桑鳩先生、飯島春敬先生、南谷、町春草先生。

1983年に発行された『現代書』(雄山閣出版)という本の中で、南谷はこんなことを書いています。

私の作品は、過去を否定しようとか、新しいものを作ろうというような意図から生まれたのではない。そうではなく、書作品が人に感動を与えるのはなにゆえであるか、書表現の本質は何か、ということを追求することから始まった一つの実験なのである。

「文字を書かなくても書といえるのか」。こんな議論があちこちで行われ、私もその現場にいあわせたことがあります。今では考えられないほど、みんな純粋で率直で、まるで若者のようにひたむきでした。

写真1.jpg
あの頃の熱い情熱は、今では失われてしまったのでしょうか。

明日は南谷の作品をご紹介しましょう。

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